Fahrenheit Ⅳ



「あ、あんま捻りなくてごめんね。瑠華はいっぱい時計持ってるだろうし、これよりうんと高いの持ってるだろうけど…」


「ううん」あたしは首を横に振った。「嬉しい」


これ、恋人に贈るににしてはかなり高価なものだとすぐに気づいたけれど、これが啓の気持ちだと思うと嬉しい。


素直な気持ちだった。


でも、これだって50万以上はするだろうに。あたしにその価値があるって言うの?


これをどんな気持ちで選んでくれたのか―――





「啓―――あたしのこと、まだ好きでいてくれますか?」あたしの問いに






「瑠華しかいない」と啓の真剣な答えが返ってきた。





涙が出そうになった。


「ごめ……なさ……あたし……色々疑って……疑心暗鬼になってて……」


涙を止める筈が、それは自分の意思に反して止めどなく溢れてくる。


「俺の言葉、信じてくれるの?」啓があたしの顔を覗き込み、涙の痕を指の腹で拭いてくれる。


「I trust you.(信じてる)」





「愛してる」





啓は言ってくれた。


もう充分だ。その言葉を聞けただけで。


啓は再びあたしを抱きしめ、その勢いで思わず一歩後退するとすぐにベッドにぶつかった。


そのまま転がり込む形でベッドに重なったあたしたち。


ベッドに沈んだあたしの頬をゆっくりと愛おしそうに撫でてくる啓に、また涙が出そうになった。


啓はあたしの両頬を手で包み、見つめ合ったまま、額にキスを落とす。


「ここなら二村もいないし、好き勝手し放題だ」とちょっと悪戯っぽく笑う啓。



啓




啓―――




あたしの大切な人。唯一無二で―――絶対に守らないといけないひと。


あたしは啓の顔を両手で包むと自ら口づけをした。


啓は予想していなかったのか目を閉じた気配がなかった。けれどあたしは夢中で啓にキスをした。やがて啓もそれに応えてくれて激しいバードキスを繰り返しながら、あたしは啓と抱き合ったまま、体を反転させ啓の上に乗った。


啓の大きくてそれでいて細い指があたしの浴衣に侵入してくる。浴衣の帯を自分で外すと啓の手は浴衣の肩部分から遠慮がちに入って来る。浴衣の襟元をゆっくりと脱がされ、下着が露わになる。


それでも構わなかった。


たった一夜。


それは美しく咲く月下美人。


啓があたしの首筋に唇を寄せ優しいキスを落としながらブラホックを外そうとする。啓のまだ半乾きの髪からはいつもと違ったホテルのシャンプーの香りが香ってきた。それに交じってほんの少しのFahrenheit。


それが酷く心地よい。


久しぶりなのか、緊張しているのかその動作は酷く不器用に思えてじれったくなったあたしは自ら背中に手を回しブラホップを外した。


啓が目をまばたくのが分かったが、そのまばたきさえあたしを見てほしくてあたしは啓に口づけを落とした。