Fahrenheit Ⅳ



長風呂で火照った身体に、部屋の窓を開けてベランダに出てタバコをくゆらせた。


このホテルは全室禁煙だがベランダだったら吸ってもいい、と言うありがたい設定。それぐらい無駄にベランダが広い。




『月がきれいだね』




以前、啓が送ってくれたメールを見て、嬉しい気持ちと何だか泣きそうな複雑な気持ちになる。


半分だけの月。不完全で、でも完全に半分近い。


あと少しでこの月はまん丸になる。






そのときあたしたちは―――






ベランダに出てデッキチェアでタバコをくゆらせていると隣室から覚えのあるタバコの香りが香ってきた。





「月がきれいだね」







啓の言葉を聞いてあたしは目を開いた。


「部長……部長もタバコですか?佐々木さんは?」


「佐々木は疲れたのか爆睡中」啓が苦笑いを漏らした。


まぁ、慣れない運転で疲れたのもあるのだろう。その後はすぐ奈良支社で仕事だったし。




「誕生日、おめでとう」





と言われて、あたしは自分の誕生日を思い出した。


そっか……日を跨いだら誕生日だ。ここ最近色んな事がまるで嵐のように起こって誕生日すら忘れていた。


「まだ……誕生日ではありませんが」


あたしの誕生日、覚えててくれたんだ……


それだけで嬉しい。何だか泣きそう。


啓は悲しく笑った。


啓―――覚えててくれたんだ。


それに嬉しくて、でも悲しくてベランダ一つ隔てた啓の声にうっすら涙が浮かんできた。


「柏木さん―――ううん、瑠華―――そっちに行ってもいい?」


啓の言葉に目を開いて、あたしは部屋の出入り口を見た。


「行ってもいい?」と言ってすぐにノックする音が聞こえてきて、最初は開けるべきかそのままにするべきか悩んだが結局あたしは瑠扉を開けていた。


扉を開けると、浴衣姿の啓が立っていて、


改めて


「誕生日おめでとう」と一言言い、無言で抱きしめられた。


啓のぬくもりは風呂上りだからだろうか、いつもより熱く感じられた。でも香りや温もりは変わらない。


抱きしめられて、あたしはおずおずと啓の背中に手を這わせる。


「今日だけは―――こうしていさせて?」


啓はあたしを抱きしめてそっと囁き、あたしの肩に頭を乗せる。


どうして―――?


瑞野さんは?


彼女との噂はやはり噂でしかなかったの?


啓は後ろに隠し持っていたのであろう見覚えのある鮮やかなブルー色をした紙袋を取り出し、


「これ、大したものじゃないけど誕生日プレゼント」とややぶっきらぼうに言って啓はその紙袋をあたしに手渡してきた。


「あ、ありがとうございます。開けても?」と聞くと啓は首をぶんぶん縦に振った。


ブルーの箱に白いリボン。リボンを解くと


「時計―――?」あたしは文字盤が綺麗なティファニーブルーの腕時計を眺め、目をまばたいた。