Fahrenheit Ⅳ


けれど湯の温度にのぼせそうになりそう。


だめだ、のぼせてしまう、と諦めて出るも、女性たちがあたしの裸体を無遠慮に見て見てしげしげ。


あたしはタトゥーのある場所をさりげなく隠して慌ててその場を離れた。


「あーやっぱ、若い子には勝てないわね。て言うかさっきの男の子と一緒に居た女の子じゃない?元が可愛いから化粧をとっても可愛いわけだ。はぁ羨ましい」


と声が聞こえて、逃げるように露天風呂を出て脱衣所でバスタオルを巻きつけながらボディークリームを塗っていると、さっきの女性たちが出てきて


「やっぱり若い子には適わないわね~」と言葉をまたも聞き、早々と大浴場を出る羽目に。


敵視しているのか、羨ましいのか分からないけど居心地が悪い。


結局一人部屋に戻って、スキンケアと髪を乾かし、ホテルの自販機で買った缶ビールを飲みながらやっとひとつき。


時間は夜の11時半。あたしは紫利さんに電話を掛けた。


「もしもし、瑠華です。夜遅くにすみません」


『瑠華ちゃん?ユーリちゃんもう寝てるわよ。今日はシルバニアファミリーじゃなくテディベアのぬいぐるみでおままごとしたの。ちゃんと朝食も昼食も夕食も残さず食べて、ママがいないってごねなかったから安心して』


と聞いてほっとした。


「紫利さん、すみません、迷惑ばかり」


『あらぁ、迷惑なんて思ってないわ。楽しかったわよ』紫利さんはコロコロと笑う。『本当に可愛いわね、ユーリちゃん、いい子で』


それを聞けて良かった。


「明日は早めに帰るつもりです。紫利さん本当にありがとうございます」と相手なんて見えないのに頭を下げると


『いいのよ~、気にしないで?今日は蒼介も研究で大学に泊まり込みだし、ちょうど良かったわ』


「今度きちんとお礼を」と言い出すと


『いいのよ、好きでやってることだから』と紫利さんがちょっと笑った。


紫利さん―――本当にいい人。いっときとは言え啓が本気になった唯一無二のひと。


一晩だけ咲く美しい花。


ご主人だけではなく、啓の目にもきっと会う度に一晩一晩美しい花を咲かせる月下美人に見えたに違いない。


窓の外を見やると月がきれいなことに気付いた。半月でもその輝きはどんな宝石よりもきれいに見えた。


満月の時に咲く花。


月下美人が咲くにはまだ早い。