「柏木さん、彼氏できたんですかね」と露天風呂に並んで浸かりながら佐々木が気弱そうに俺に尋ねる。景色も悪くないが寒い冬に湯の湯気が立ち込めていた。そのせいかだいぶ向こうの景色が薄れている。
瑠華が電話していた相手―――その相手もこんな風にぼんやりと薄れて俺の中に存在している。
「知らね、本人に聞けば?」と言うが、聞いて俺に教えてくれ!と黒い考えを浮かべる俺は慌てて頭を振った。
でもどうせ佐々木が聞いたところではぐらかされるに決まってる。
いくら寒い冬だからと言って俺はあまり長湯ができないタイプだ。もうのぼせてきた。
「わりぃ、もう出る」と言うと
「え?もう?」と佐々木が目をパチパチ。
「俺、熱いの苦手」と言って脱衣所に行って急いでバスタオルで体を拭き、髪も乾かすのも煩わしく浴場から出ると俺は慌てて綾子に電話。佐々木は温泉が好きだと言っていたことは本当らしくしばらく出てきそうにない。
『もしもし?』と若干不機嫌なのは疲れてるからなのだろうか。でもこっちも切羽詰まってるんだよ。
「瑠華って彼氏できたの!?てかマックスとは!?」と勢い込むが
『聞いてないわよ、てかあんた今奈良でしょ?何でそう思うわけ』とそっけない答えがかえってきた。
「いや、それっぽい会話を聞いちゃって…」
『それっぽい会話って何?柏木さんなら私にちゃんと報告してくれるわよ。それに今は娘さんと一緒みたいだし、流石に彼氏作ることはないんじゃない?』
だよな……
ユーリが居る今、新しい彼氏なんて作ったらユーリが受け入れるかどうか。瑠華はその辺考えてるだろうし。
はぁ。
俺はため息を漏らした。
一泊二日とは言え娘を残してきて心配だろうな…
『とにかく、娘さんのことでいっぱいいっぱいでしょ。新しいオトコのことなんて考えてないわよ』
「そうかな~…」
『何弱気になってんのよ!しっかりしなさいよ』
ブチっ
電話は一方的に切れて、
ど、どーしよーー!
風呂からあがって、しかしエレベーターホールで瑠華と一緒になることはなかった。



