Fahrenheit Ⅳ


彼女たちも同じように動物園に遊びにきたのだろうか。それぞれ水筒からコーヒーを注いでいた。


「ええ、すみません。煩かったら」と一応謝ると


「いいえ、ちっとも。もしかしてお子さん?」と聞かれ


「ええ…はい」と答えると


「いいわねぇ、若くて可愛いママで。うちなんてほら、娘はもう三十過ぎなのに結婚の”け”の字もないわ」と彼女は太いため息を吐いた。


「うちは幸いにも結婚はしてくれたけど、まだ子供は要らないって。仕事が大切だからって」と違う女性も困ったように眉を寄せながら苦笑い。


ちょっと耳がイタイ。


あたしだって今の状態で子供を産もうと思うのかしら。


ふと瑞野さんの姿が頭をよぎった。瑞野さんはこの後どうするつもりだろう。産休育休を取って会社に戻って来るつもりだろうか。


彼女も仕事が嫌いそうには見えなかったし。


「今日、パパは?」と一人が聞いてきて


「ちょっと突っ込みすぎよ」ともう一人が気を遣ってくれる。


「(元)主人は仕事で今はNYに。私はこちらの親戚に用があったのでついでにこの子と会わせようと」と、あたしは適当に誤魔化した。


「あら、それは親戚の方も喜ばれる筈だわ。本当に羨ましい。こんなに可愛い子で」


彼女たちの話は終わらない。日本語が理解できないユーリは黙々と紫利さんの作ってくれたお弁当を食べている。その様子を一人が気づいて


「あらやだ、私たちったら親子の邪魔しちゃって。ごめんなさいね」と木のテーブルから腰を上げた。


「それじゃまた」と気軽に手を振られ、あたしは頭だけを下げた。