Fahrenheit Ⅳ


葵さんはそれ以上何を言うわけでもなく、また追って来ることもなかった。


午後はユーリと上野動物園に行こうと決めていた。


一旦家に帰りつき、紫利さんが用意してくれたお弁当を手に二人して車で上野動物園に向かった。


ユーリは園に入る前からはしゃいでいた。動物園なんて久しぶりなのだろう。


園内は午後だと言うのに、土曜日だからか混んでいた。その中でもやはり家族連れが多く見える。彼らたちは両親が揃っていて、園では母親と娘と言う組合わせはあたしたちだけのように思えた。


ユーリに寂しい思いをさせてしまうかもしれないと思ったが、あまり気にしていないようで入園チケットを買ってゲートをくぐると、ユーリは一人で走って行こうとする。その後を慌てて追ってユーリの手を繋ぐと、すぐにニホンカモシカのコーナーに入った。日本の鳥が多く羽ばたいていて、ライチョウなんかもいる。その向こう側で五重の塔が見えた。


「Wow!(わぁ!)」とユーリは早速ニホンカモシカに夢中。


その先を進んでいくとリスやプレーリードッグのような可愛い動物が続く。その先は猿や、像なんかも見える。


「Elephant!(象さん!)」とユーリは自分の何十倍以上もある象の前ではしゃいだ声をあげた。


像は餌のりんごを器用に鼻の先で丸めて口に放り込むところだった。


像は―――世界一巨大な生き物で、その体と力はライオンにも勝ると言う。


けれど食べるものは草食系で、園ではリンゴやバナナなどを与えているらしい。


大きな像はリンゴを満足気に食べ、その長い鼻を再び丸めた。


大きな像に満足したのかユーリは次へ次へとあたしの手を引いて楽しそうに走っていく。


ユーリが走っていった先にはキジやカワウソ、フクロウなどのコーナーでユーリは特にフクロウが気に入ったようでなかなかそこから離れようとしない。


「I wonder if Hedwig is here.(ヘドウィグいないのかなぁ)」と聞かれ


「Hedwig? From Harry Potter?(ヘドウィグ?あのハリーポッターの?)」


「Yes, July, I absolutely love Hedwig(うん、ユーリ、ヘドウィグ大好きなの)」


知らなかった。


確かにあのふわふわの白いふくろうに黒いまん丸の目は可愛かった。いつもハリーを助け、見守り、最強のペアと言えた。


考えたら葵さんとあたしの関係ってハリーとヘドウィグに似てるかもしれない。


「We should go see the other animals, so shall we go?(他の動物さんも見なきゃ、だから行こうか)」と促すと、ユーリは素直に頷いた。


その後はバクや虎、ゴリラ、アザラシの順に回ってそのどれもユーリははしゃいだ声を上げて夢中になっていた。


あたしはそのはしゃく姿のユーリの姿をスマホの写真に収めた。


あたしの可愛いユーリ。この瞬間を永遠に忘れない為に―――


あたしの写真フォルダはユーリの写真であっという間にいっぱいになった。