大切な人、という言葉が効いたのか葵さんは顔をちょっと赤くして黙り込んだ。
「成功したのなら追加料金で20万払います」
との言葉に葵さんは目を丸めた。
「いや、いいよ!俺は瑠華ちゃんの役に立てたら、だって俺ら…」
「共犯者、ですからね」とそっけなく言うと葵さんは僅かに俯いた。
「……うん」
と短い返事を聞いて、あたしはコーヒーに口を付けた。運ばれてきたばかりのコーヒーは少し熱いぐらいだったのに、すっかりぬるくなっている。カップをソーサーに戻すと黒い色はゆらりと動いた。
それはこれから巻き起こる波紋を思わせた。
もう後戻りはできない。
そんなことを考えていると
「瑠華ちゃん、今日の午後はどう過ごすつもり?」と唐突に葵さんに聞かれ
「予定があります」あたしは即座に答えた。
「それって元カレと?」と探るように聞かれ、あたしは目を上げた。
「それ以上に大切な人です」と答えると葵さんは再び黙り込んだ。
「コーヒー、すっかりぬるくなってしまいましたね。私は行きます」伝票を手にして席を立とうとすると葵さんに腕を掴まれた。
何?
訝し気に思って顔を葵さんに向けると
「ご、ごめん、何でかな。手が勝手に……」
葵さんはあたしから手を離すと慌てて引っ込めた。
「葵さん、私はあなたが好きですよ。その写真良く撮れてるでしょう?」
と言うと、葵さんは目をぱちぱちさせ、
「葵さんは私の仮の恋人。それを忘れないでください」
それだけ言い残してあたしは伝票を手にお会計に向かった。



