「元々真咲は料理が苦手でしたが、ここ最近つわりがひどくて僕も料理は全然なのでコンビニ弁当とかになっちゃうんですよ」
菅井さんはチャーハンを一口口に入れ「うっま!」と口元を押さえた。
「はは、そんな…感動するような味じゃないですよ」俺もチャーハンに口を入れる。昨日煮込んだチャーシューは味が染みていてちょうどいい塩梅だ。
「で?今度はどんな理由で喧嘩をしちゃったんですか?」
前回は名前の話で衝突してたよな。
「それが……将来の習い事で…僕はバレエをやらしたいって言ったんですが、真咲はピアノが良いって」
「へぇ意外ですね。逆だと思ってました。どっちかって言うと菅井さんがピアノを望むかと」
「僕も真咲がピアノをやらしたいって言ったとき意外でしたよ。何で?って聞いたら昔好きだった男がピアノを習ってたって言い出して、それで喧嘩に…」
ごふっ
俺は思わず口に含んでいたチャーハンを吹き出しそうになった。
「その男は今有名なピアニストに?」と恐る恐る聞くと、菅井さんはゆるゆると首を横に振った。
「でも一度真咲の前で弾いてくれたことがあったらしく、それがかっこよかったみたいで」
ああ……学生の頃一回だけあったな、そういうこと。あの時はあちこち行き捲って、行くところに飽きてきたから大学の構内の音楽室がたまたま空いてて、そこで俺ピアノ弾いたんだった。あいつ……そんなこと覚えてたの?
「でも菅井さんの前でそんな話はNGですよね。そりゃ菅井さんも怒る筈…」
俺だって瑠華とマックスの仲良かった過去の話を聞くと(聞いたことないけど)腸煮えくり返る。
ちょっと同情気味に言うと
「まぁそれにもちょっとイラっと来ましたけれど、それ以上にうまくさせてプロデビューさせたいって」
あいつらしい。負けん気が強いって言うのかな。
それこそ今日、綾子と裕二と話した愛と歴史に比重だ。真咲はまだ過去に捕らわれていて、そこから完全に抜け出せないのだろうか。まるで荊の蔦で足を捉われたような……そんな想像すらしてしまう。
でも決して縋っていても怪我をするのは真咲自身だ。荊の蔦をちぎってその先に咲き誇る薔薇の花を手に入れるべきだ。
「でもプロになれる人間なんて一握りじゃないですか。因みに神流さん、ピアノは?」とじとーっと菅井さんの視線が刺さる。
「俺は弾けませんよ!野球一筋でしたから。でも俺の元カノもピアノ上手でしたよ」元カノと言うのは言うまでもなく紫利さんのことだ。
菅井さんに嘘をつくのは心苦しいが、俺を巻き込まないで欲しい。
真咲めっ!



