Fahrenheit Ⅳ


そんなわけで午前中はあっという間に過ぎて行った。


殆ど仕事と言う仕事もできず、瑠華は資料をバッグに詰め込み帰り支度。


「あれ~柏木さんもう帰っちゃうんですか?それとも外回り?」と隣のブースからひょっこり二村が顔を出した。


出たな二村。ここに何の用がある!


「今日は外せない用があり半休です。ですのでお先に失礼します」と瑠華はそっけなく言ってすっと二村の横を通り過ぎた。


「相変わらず冷たい?」と何故か俺に意見を求めてくる二村。二村は―――明らかにこちらの様子を窺っている様子だ。瑠華の不在に何か勘づいたかもしれない。でも、今知られるわけにはいかねぇんだよ。


「知らね、俺らにもあんな感じだし」


と俺は二村の意見にそっけなく返しPCに向かうと二村は「瑞野さん……」と瑞野さんに声を掛けようとしたが


「部長、この資料の確認お願いしたいんですが」と瑞野さんは二村の問いかけをスルーして資料片手に立ち上がり俺の元に来る。


それが面白くなかったのか、或いは無視されたことが響いたのか二村は若干肩を落とし自身のブースに帰って行った。


ちっ、疫病神が。


心の中で舌打ちしていると、二村が立ち去っていったことを知った瑞野さんがヤツの帰って行った方のブースを眺めていた。


無意識なのかお腹の辺りを押さえている。


「瑞野さん、お昼入っちゃって。資料はメールで柏木さんに送ってチェックしてもらうから」と言うと瑞野さんはどこか複雑な笑顔を浮かべた。


瑞野さん―――本当はまだ二村のことが―――?


――――


――


「わっかんねぇな~」


俺は今綾子と裕二と、以前裕二と来た定食屋で食事中。


今日の日替わりランチはチキン南蛮。タルタルソースも自家製でトロトロ、卵の半熟具合がたまらなくうまい。


「分からないって何が?」綾子がチキン南蛮のチキンの一切れを口に入れる途中で箸を止め、上目遣いで聞いてくる。


「女心と何とかの空ってヤツ」俺が意味もなくチキン南蛮のチキンをつついていると


「柏木さん、まだ怒ってるのか?」と裕二が白米を口に入れながらおしんことして添えられたたくあんに箸を伸ばしている。


「いや、柏木さんはもう大丈夫…だと思う。大体俺が一回無視したぐらいでそんなに引きずるタイプじゃないよ」


……と思いたい。


前回ユーリと三人で会った時は普通そうに見えたし、ユーリが居たからかな、楽しそうではあったが。


そう考えたらユーリは俺たちの仲の橋渡し役だったわけだ。ユーリさまさまだぜ。


「俺が言いたいのは瑞野さんのことだよ。瑞野さん、まだ二村のこと好きなんじゃないかな?」


「はぁ?あんな風に裏切られて?しかも瑞野さんの中には二村の子供が居るんだろ」と裕二が顔を歪める。


「私だったら無理。裕二が出世の為に他の女を利用しようとして別れるって知ったら、一生恨んでやるわ」


裕二は途端に顔を青くさせて両腕を撫でさすっている。


綾子なら、それこそ丑の刻参りしてでも、裕二を恨み続けるに違いない。


怖っ!!