Fahrenheit Ⅳ


「全く出社しない、というわけではないし、自宅でリモートワークもしてもらうつもりだから痛手にはならないだろうが、柏木さんの不在を他の部署に知られたくない。


情けないが、我が部は柏木さんで持ってるようなもんだから、あれこれ探られると面倒が起こる」


俺が腕を組んで眉間に皺を寄せると


「それはそうですけど……でも私情って……もしかして病気…とか」と佐々木が顔を青くさせて口元に手を当てる。


瑠華が手を挙げ


「佐々木さん、私は病気ではありません。ただNYでの裁判の件がまだ片付いてなくて、今頃になって再審になったのでその件で電話がたくさん掛かって来るので、そのたびに席を抜け出すことができないからです」


と事前に打ち合わせた嘘の理由を述べる瑠華。


「裁判?」と佐々木が目を丸める。


「以前の会社のことです、そこでのトラブルですがここでは全くの無関係。皆さんを巻き込むことはできません」


「でも……柏木補佐がいないと不安です」


と違った意味で瑞野さんが顔を俯かせる。


「瑞野さん、私はできる限りあなたのサポートを行うつもりです。何かあったら不安ごとでも少しでもあったら気軽に連絡してください。すぐに向かいます。それが難しいようなら部長にひとまず相談を」


瑞野さんの妊娠は俺も知っている。瑞野さんもそのことを知っているからか、少しだけ安心したように胸を撫でおろした。


少し前まで瑠華は瑞野さんを避けていたように見えたが、今は瑠華に何の心情の変化があったのか分からないが何かが吹っ切れたように瑞野さんの心配をしている。


「早速、今日から。柏木さんは午前中で帰るが会社用の携帯はいつでも繋がるようになっている。でもできるだけ柏木さんの手を煩わせたくない。仕事を円滑に進めるためにな。ひとまず俺に相談して、それでも解決しないようであれば俺が柏木さんに相談する手順にするから、それでいいか?」


と全員を眺めると


「仕方ないですよね」と佐々木が情けない声で答える。


「佐々木さん、心配しないでください。私は有能な弁護士を雇っています。一か月程度で片付く問題かと」と瑠華が佐々木を見て


「一か月…」と佐々木はまたも肩を落とした。


「何も一か月全くの休職状態ってわけじゃない。会社にも顔を出すし、そう気落ちするな」と同情気味に言って佐々木の方を叩くと佐々木は顔を上げ今にも泣きそうに顔を歪めた。


俺だって泣きたいよ。