紫利さんと蒼介さんのなれそめも聞いた。
「あの人ね~いきなり月下美人の花一輪を差し出して『結婚してください』よ?お付き合いだってしてなかったし、会ったのだって三回程度なのに」
月下美人―――
それは甘く濃厚な香りの純白の大輪を一夜限り咲かせ、翌朝にはしぼむ神秘的な花。
紫利さんにぴったりだが、紫利さんの美しさは一夜限りではない。
それは人柄なのか、そもそも持ち得る内側からの美しさなのか。
蒼介さんの目には会う度の一夜一夜がきっと月下美人だったに違いない。
「それでOKを?随分思い切りましたね」
「よくお客様には口説かれるけど、こんな風にまっすぐに純粋に告白されたのは初めてで、それで結婚を決めたの。瑠華ちゃん、最初蒼介のこと冴えないおじさんだと思ったでしょう?」悪戯っぽく笑われてあたしは思わず苦笑。口から変な煙が漏れた。そう思ったのは事実だが口にはできない。
だってこんな中身も外見も美しい人と結婚する男性はどんなステキな人なのだろう―――と漠然と想像してたから。
「蒼ちゃんはね、すごく純粋なのよ。その部分に惹かれたのね。歳は少し離れてるけど私のこと大事にしてくれるし、口下手だけど私と一生懸命喋ろうとしてくれる。夫婦なんだからそんな必要ないのにね」
「羨ましいな―――」
ポツリ…つい本音が出てしまった。
あたしは吸い終えたタバコを灰皿にぎゅっと力強く押し付けた。タバコがへし折れる程。
あたしは―――マックスとそうやって向き合ってこれた?いいえ、向き合ってこれなかった。いつも喧嘩が絶えなくて、顔を合わせると罵り合うばかり。
まぁ喧嘩の原因はマックスの浮気が殆どだったけれど。
啓とは―――色んな話をした。殆ど啓が喋ってるけれど、あたしはそれに笑ったりちょっと拗ねてみたりして、飽きることなくその時間を楽しんだ。
「私は、啓人と瑠華ちゃんが結婚して欲しいな、って思ってる」
あたしは紫利さんの発言で思わず飲んでいた白ワインを吹き出しそうになった。
「け、結婚!?」
「なぁに?お似合いじゃない。啓人は瑠華ちゃん一筋だから浮気の心配もないし、瑠華ちゃんの方が絶対強いから尻に敷くにはちょうどいいわ」うふふ、と紫利さんは意味深に笑う。
何だか笑顔が怖い。
「全て終わって、落ち着いたら―――結婚式には絶対に呼んでね」
結婚―――?
啓と結婚することまで考えてはなかったけれど、もし結婚することになったら、絶対に紫利さんには出席してもらいたい。
それは夢で終わるのだろうか。それとも実現するものだろうか。
あたしは――――



