その晩、あたしのリビングに笑い声が響いた。
「そんな誘い方を?啓らしい」
昼間から夜までリビングにユーリが居たからタバコが吸えなくて、あたしはタバコを吸いながら紫利さんの言葉に耳を傾けていた。
「でしょう?啓人もよっぽど自信があったのね、あの頃は」と紫利さんは白ワインを飲んで可笑しそうに笑う。
今はまるで自信がないような物言いが気になったけれど。
今、あたしは啓と紫利さんが出会ったなれそめを聞いている。
普通だったら聞きたくない筈なのに、何故だか紫利さんとの過去には興味が湧いたし、聞いていて楽しい。
変なの。瑞野さんと二人っきりで居ただけでも自分でもどうしようもなく制御できない感情が、今はまるで夜の穏やかな波のように穏やかに凪いでいる。
「デートにバッティングセンターにも行ったし、カラオケも。高校生デートだって言って」
「ふふ」あたしは自然に笑みが漏れた。それと同時に紫煙が口から洩れる。「啓も何を考えてるんだか。女性をバッティングセンターへ?」
「そうよぉ。最初は何考えてるのよこのクソガキ、って思っちゃったけど意外に面白かったわ。瑠華ちゃんスポーツは?」
「私はゴルフと水泳を少々」と言うと紫利さんはまたも色っぽく笑い「瑠華ちゃんぽい」と言った。
「私もゴルフは好きよ?昔お客さんとよく行ったわ。今度一緒に回らない?」
「いえ、とんでもない。私なんて下手で。そう言えば越してきたばかりに打ちっぱなしに行こうかとゴルフバッグを持っていたら、たぶん最上階に住んでる何やってるか分からないんですけれど若い男性から声を掛けられて、今度ゴルフ行きませんか?って」
「何それナンパ?」と紫利さんは顔を歪めた。
「そうかもしれませんが、お連れさんがいらっしゃって……男性でしたが『会長はゴルフがど下手くそじゃないですか。恥をかくだけです』って」
「”会長”ってことはどこかの会社の経営者ってこと?ここ、相当値が張るマンションよ?」
「ええ、所謂ペントハウスに住んでる方だと思いますが、何か雰囲気が普通じゃないって言うか…」あの目だけで人を殺せそうな印象的な眼孔が気になった。
「それって……反社ってこと?ここ、審査が厳しいでしょう?」紫利さんがちょっと心配そうに顔を歪める。
「ええ、あくまで私の勘ですし、だからその筋の方じゃないと思いますけれど」



