婚約者を妹に奪われたのでヤケ酒していたら、なぜか黒薔薇公爵に求婚されました

「な、何者だ!?」

 これには流石の父も大きな声を上げたが、すぐに目を見開いて固まってしまった。

 そう、伯爵邸に入ってきたのは……武装した公爵家の兵士達だったからだ。

「その者達を捕らえよ!」

 全員が呆気に取られていた中、クラウド様が凛とした声で兵士達に命令をした。

「ハッ!」

 兵士達は勇ましく返事をして、すぐに父と母を拘束してしまった。

 母は絶望しきった表情をしていて、最早抵抗する気力もないようだ。

 まぁ、当たり前よね。
 公爵夫人の暗殺未遂なんて……処罰されて当然の大事件だもの。

 その一方で、さっきまでの冷静な姿は何処へやら……騒ぎ立てているのは、父の方だった。

「おい、愚民共! 私は何も関係ないだろう!? 馬鹿なことをしたのはこの女だけだ! 私は関係ない!」
「それは、暗殺未遂の件に関してだろう? 貴様には、別件で王家から正式な書状を預かっている」
「……べ、別件……ですと……?」

 父の顔が、サッと青くなる。

 私は何も言わず、ただ成り行きを見守ることにした。

 ……母への裁きは、もう終わった。
 だから、父を裁くのはクラウド様を信じて任せるわ。

 ____きっとクラウド様は、あの時の私のお願いを叶えてくれたのだろうから。




 クラウド様が丸められた書状を開き、父の眼前に突きつけた。

「レインフォード伯爵。貴様は、事業が傾くのを防ぐために人身売買を裏で行っていたようだな。それも、若い女子供を狙った悪質なものを……」
「な、な、なぜ……それを……!?」
「グレンウィル公爵家の力を舐めるな。……この件は、既に王家にも報告済みだ。貴様らが行ったことは立派な王国法違反だぞ」
「あ、あ……あ゙ぁぁぁぁぁ!!!」

 父が、狂ったように叫びながら膝から崩れ落ちた。
 その瞳には、確かな絶望と怒りが滲んでいる。

「……連れて行け。この刺客の女も共に連行しろ」
「ハッ!」

 母は生気を失ったような表情で、ブツブツと何かを呟きながら連れていかれる。
 その目の焦点は合っていない。

 ……父にも裏切られて、もう心が壊れてしまったのだろう。



 そしてその父はというと……拘束された状態で醜く顔を歪ませながら、最後の最後に私の方を振り返った。

「全部……全部、お前のせいだ、アイリス! お前さえいなければ……!!」

 ……この人は、最後まで自分の罪を認めることが出来ないのね。

「私がいなければ? いいえ、違います。私がいたから事業が上手くいったのです。それを台無しにしたのは、他でもないあなた達でしょう」

 そう冷たく言い放つと、父はギリ、と歯軋りをした。

 私はそんな父に微笑みかけながら、ゆっくりと口を開く。





「さようなら、お母様、お父様。____最期くらいは、素敵な夢をみられるといいですね」

 ……いつかのメアリーの言葉を借りて……。

 いいえ、メアリーの想いを背負いながら……私は二人に別れを告げたのだった。