別にあなたに愛されなくても。〜死に戻った侯爵夫人は、二度と夫を愛さない〜

 結婚してからの日々は幸せそのものだった。
 美味しいご飯に親切な侍女、快適なベッドに何不自由ない生活。

 実家である伯爵邸よりも大きな屋敷で、私は愛されていた。


 一番大きな変化は、初対面の人間の前でも笑えるようになったことだ。
 友人とまではいかなくとも、少しぎこちない会話だとしても……人と話して、コミュニケーションがとれるようになった。

 ヴィクトル様や侍女の皆さんが優しくしてくれたから、私も人を愛することが少しずつできるようになったの。

 両親や伯爵邸の皆以外に対して、優しく接することができるようになった。



 ヴィクトル様が、私に自信をつけてくれた。



 舞踏会に出れば、「自慢の妻なんです」と紹介してくれる。

 気付けば、私を『氷の令嬢』と呼ぶものはいなくなっていた。
 私は、『クラウゼン侯爵夫人』と呼ばれるようになったのだ。






 でも、そんな日々の中で、一つだけ……不安なことがあった。

 それはヴィクトル様が、私のことを抱いてくださらないこと。
 それも、ただの一度も……。

 結婚初夜ですらそうだった。

「君を大切にしたいから」

 そんな優しい言葉をかけられて、血の痕だけを偽装して初夜をやり過ごした。

 けれど、いくら月日が流れようとも、ヴィクトル様は私に手を出してくださらない。
 香水をつけてみても、少し恥ずかしいランジェリーを身につけても、ヴィクトル様は「ダメだよ」と困ったように笑うだけ。

 私にはそれが不満だった。
 だって、私はヴィクトル様に優しくされる度……彼を愛してしまっていたから。

 だから、身も心も全て捧げてしまいたかった。

 彼の子供が欲しかったのだ。

 

 社交の場で「跡継ぎの方はいかがですかな」と尋ねられても、「授かりものですから」と躱す彼のことがわからなかった。
 私の魔力を受け継ぐ子供が生まれれば、この家の力だってもっと大きくなるはずなのに……。





 ____そして結婚式から一年経っても、とうとうヴィクトル様が私を抱いてくれることは一度もなかった。