「奥様、大変お美しいです。きっと侯爵様も夢中になること間違いありませんわ」
「ふふ、ありがとう。そうね……素敵な夜にするわ」
私がそう答えると、侍女達は「まぁ!」と分かりやすく浮かれ出した。
……そういえば、彼女達は旦那様の愛人について、どこまで知っているのかしらね。
一度目の人生で私を捕らえたのは、侯爵家の護衛騎士数人だった。だから、少なくとも彼らは敵。
けれど……あの場に侍女はいなかったことを考えると、彼女達はもしかして何も知らないのかしら。
……いえ、だとしても……全員がそうだとは限らない。信頼のおける古株にだけ事情を伝えておいて、他の侍女は知らない……なんてこともあるかもしれないもの。
それに、屋敷内に味方ができたとしても……その侍女から悪意なく情報が広まってしまうことも考えられる。
そう考えると、私はこの屋敷の中では……何も気付いていない振りをして、派手な動きはしないのが得策ね。
そうなると、やっぱりお茶会で味方を増やしていくしかないのかしら……。でも、貴族社会で「侯爵夫人が侯爵の身元を探っている」なんて噂が広まったら危険だわ。
…………ヴァイス公爵夫人のお茶会次第で、今後のことはよく考えないといけないわね。
「それでは、私共は失礼いたします。素敵な夜をお過ごしください」
「えぇ、あなた達もゆっくり休んでちょうだいね」
……侍女達が部屋を出ていった。
そしてそれから数分後、ノックもなしにガチャ、と扉が開く音が響く。
夫が部屋にやってきたのだ。
「やぁ、シャーリン」
「ヴィクトル様……いかがですか? 私の格好……変なところはないでしょうか」
「まさか! とても……扇情的だよ。でも、私は君に言っておかなければならないことがあるんだ」
「はい、なんでしょう……?」
「実は……私は今日、君を抱くつもりはないんだ。勘違いしないで欲しいんだが、私は君のことを愛している。だから……大切にしたいんだ」
…………一度目の初夜も、全く同じやり取りをしたわね。でも、違うのはここからよ。
「まぁ…………そんなことを仰って、ヴィクトル様ったら、実は怖気づいているだけじゃありませんこと?」
「……なんだって?」
夫の眉が、ピクリと不快そうに動いた。私は笑みを深めて、夫をベッドへと引き摺り込む。
「大丈夫ですよ、経験がないのは恥ずかしいことじゃありませんわ……。私だって同じです」
「い、いや、私は…………」
「お互い初めての結婚相手なんですもの、失敗するかもしれませんけれど……私、あなたと一緒に夜を過ごしたいのです」
「いや、だが…………」
「…………まさか、ヴィクトル様は、不能でいらっしゃいますの?」
「っ、そんなわけがないだろう!」
私が心底驚いたようにそう煽ると、夫は眉間に皺を寄せて大きな声で否定した。
私はその姿を見て、思わず笑いそうになるのを我慢する。
「私は不能ではない! その証拠に、経験だってある!」
_____きた、この瞬間を待っていたのよ!
「そ、そんな……! 他の女性を抱いて、妻の私を抱いてくださらないなんて……私には魅力がないのですか!?」
「ぐっ……! ち、違う、私は君のことが大切だから、」
「言い訳なんて要りませんわ! うぅっ……! すみません、な、涙が……。わかりました、ヴィクトル様は私を愛してはいらっしゃらないのね……ごめんなさい、今夜は一人で休んでもよろしいでしょうか……」
私の言葉に、夫がぎくりとする。
「だ、だが、それでは使用人に怪しまれるだろう?」
「怪しまれるも何もありませんわ、だって事実なのですから……! もう、今日は一人にしてくださいませ、そうでなければ、私は実家に帰らせていただきます……」
「わ、わかった! 君を不安にさせて、悪かった。だが、本当に君のことを愛しているし、大切にしたいんだ。信じてくれ」
「……」
涙を流しながら離縁を仄めかすと、夫は焦ったように言い訳を並べてから、部屋を静かに出て行った。
「……ふ、ふふ、あっははは……!!!」
私はもう、笑いが止まらなかった。
なんだ、こんなに簡単なことだったのね。一度目の私は彼に嫌われたくないあまり、下手に出過ぎてしまっていたけれど……。
普通に考えて、初夜に妻を抱かないなんて失礼極まりないもの。それに、夫が他の女性を抱いたことがあるという言葉も引き出した。
あとはこの言葉を、上手く「使う」だけ。
「さて、寝ましょうか……今日は良い夢が見られそうね。……明日朝起きたら、やっぱり全部夢でした、なんてことが、ありせんように……」
唯一それだけが心配だったけれど、きっと大丈夫。
なんとなく、そんな予感がしていた。
***
チュンチュン、という可愛らしい小鳥の鳴き声と、窓から差し込む朝日で目を覚ます。
一夜明けてもやはり私は生きていて、部屋だって昨日と全く同じ。
……今更だけど、私、本当に生き返って……いえ、時間が巻き戻ったんだわ。
昨日は正直、それどころじゃなくて状況をすんなり受け入れてしまったけれど……よく考えると変な話よね。時間が巻き戻るなんて、聞いたことがない。
それこそ、魔法みたいな話だわ。そんなこと、ありえないと思うけれど……。
……いつの日か、真相がわかる日が来るのかしら?
まぁ、今はわからないことを考えていても仕方がないわね。
そろそろ侍女が来るはずよ。一度目の初夜とは違って、夫は部屋にいないのだけれどね。
____コン、コン、コン
「失礼いたします。奥様、旦那様。朝のお支度のお時間でございます。部屋の中に入ってもよろしいでしょうか?」
「えぇ、どうぞ」
私の返答から一泊置いて、侍女が部屋に入ってきた。
それから、ベッドを見て目を見開く。
「奥様……お一人だけですか? 侯爵様はもうお帰りになられたのでしょうか」
あぁ、想定通りの反応をありがとう。名前は確かサラ、だったかしら。
この子は確か、新人メイドだったはず。だったら……仕掛けるのは、今ね。
「いいえ、その……旦那様は、昨夜何もせずに帰ってしまわれたの」
「えぇ!?」
「どうしてかはわからないけれど……旦那様は私のことを、そういう対象には見ることが出来ないみたい……」
悲しそうに俯きながらそう告げると、サラはアワアワしながら私のもとへ駆け寄った。
「き、きっと昨日は体調が悪かったんですよ! だって、奥様はこんなにお美しいのですから!」
「……ありがとう、そんなこと言ってくれるの……サラだけよ」
少し悲しそうに、けれども儚さを感じさせる表情を作って、サラに告げた。
サラは捨てられた子犬のような瞳で私を見てから、大きく口を開いた。
「大丈夫です! 侯爵様が夢中になるよう……これから毎日、頑張りましょう! このサラ、精一杯尽力いたします!」
____純粋な子ね。
あまりの必死さに、なんだか肩の力が抜けて、ふっと笑みが溢れた。
……この侯爵家には敵しかいないと思っていたけれど、案外そうでもないのかもしれない。
もしかしたら、一度目の人生で私が死んだ後、悲しんでくれた侍女もいたのかしら。
……そうだったら少しは救われるわね。
それに、サラはきっとこのことで私を「可哀想な奥様」だと思うでしょう。
そうすれば、同情を買うことが出来る。
……純粋なあなたを、利用することになってごめんなさい。
それでも、死んでから初めて、他人の温かさに触れることが出来て……。
私の心は、少しだけ解れたのだった。
「……サラ、朝の支度をお願いできるかしら」
「はい、もちろんです」
____この後は、夫との初めての朝食が待っている。
一度目の人生では、この朝食会で私はあることをして大恥をかいた挙句、夫にフォローまでされてしまったのだ。
そのせいで、私は夫に心を許してしまった。
けれど今日は絶対に、前回の時のような『失敗』は繰り返さない。
生まれ変わった私を、よく見ておくといいわ。……ヴィクトル・クラウゼン侯爵。
***
ダイニングルームの前の扉に立った瞬間、私の足が急に鉛のように重くなった。
呼吸が、苦しくなる。
さっきまで、あんなに強気だったのに。
____でも、当たり前よね。私にとって、ダイニングルームはトラウマそのものなんだもの。
私が、裏切られ、捕らえられた場所。
そして、意識を失った場所……。
私にとって、一番新しい記憶。
でも、ここで立ち止まるわけにはいかない。
弱い私とは、さよならするの。
使用人が扉を開ける。
私は深く息を吸ってから、昨日と同じ笑顔の仮面を貼り付けて、ダイニングルームに足を踏み入れた。
「……おはようございます、ヴィクトル様。お待たせしてしまい、大変申し訳ございません」
「おはよう、シャーリン。ちっとも待ってなんかないさ」
既に夫は席に着いていたようだ。これも、一度目の人生と同じね。
私も執事に椅子を引かれ、着席する。
まずは給仕が温かいスープを運んできて、私はわざとらしく喜んだ。
「わぁ、とても美味しそうなスープですわね」
「はは、そうだろう。じゃあ、いただくとしようか」
「はい、そうしましょう」
愛も情もない空っぽな会話をして、震える手でスープを口に運ぶ。
大丈夫、大丈夫、薬が盛られるのは今から一年以上先よ。このスープは大丈夫、だから、勇気を出すの。
そんなふうに自分を勇気付けながら、ゆっくりと飲み込む。
____温かくて、美味しい。
なんだか、涙が出そうだった。強がっていたけれど、私、ちゃんと怖かったんだ。
「……シャーリン、どうかしたか?」
「いいえ、スープが、あまりにも美味しくて……」
「はは、それだけで泣きそうな顔をするなんて……シャーリンは心が綺麗なんだな」
「……ふふ」
私は笑って誤魔化しながら、なんとかスープを完飲したのだった。
____さぁ、ここからが正念場よ。
「ふふ、ありがとう。そうね……素敵な夜にするわ」
私がそう答えると、侍女達は「まぁ!」と分かりやすく浮かれ出した。
……そういえば、彼女達は旦那様の愛人について、どこまで知っているのかしらね。
一度目の人生で私を捕らえたのは、侯爵家の護衛騎士数人だった。だから、少なくとも彼らは敵。
けれど……あの場に侍女はいなかったことを考えると、彼女達はもしかして何も知らないのかしら。
……いえ、だとしても……全員がそうだとは限らない。信頼のおける古株にだけ事情を伝えておいて、他の侍女は知らない……なんてこともあるかもしれないもの。
それに、屋敷内に味方ができたとしても……その侍女から悪意なく情報が広まってしまうことも考えられる。
そう考えると、私はこの屋敷の中では……何も気付いていない振りをして、派手な動きはしないのが得策ね。
そうなると、やっぱりお茶会で味方を増やしていくしかないのかしら……。でも、貴族社会で「侯爵夫人が侯爵の身元を探っている」なんて噂が広まったら危険だわ。
…………ヴァイス公爵夫人のお茶会次第で、今後のことはよく考えないといけないわね。
「それでは、私共は失礼いたします。素敵な夜をお過ごしください」
「えぇ、あなた達もゆっくり休んでちょうだいね」
……侍女達が部屋を出ていった。
そしてそれから数分後、ノックもなしにガチャ、と扉が開く音が響く。
夫が部屋にやってきたのだ。
「やぁ、シャーリン」
「ヴィクトル様……いかがですか? 私の格好……変なところはないでしょうか」
「まさか! とても……扇情的だよ。でも、私は君に言っておかなければならないことがあるんだ」
「はい、なんでしょう……?」
「実は……私は今日、君を抱くつもりはないんだ。勘違いしないで欲しいんだが、私は君のことを愛している。だから……大切にしたいんだ」
…………一度目の初夜も、全く同じやり取りをしたわね。でも、違うのはここからよ。
「まぁ…………そんなことを仰って、ヴィクトル様ったら、実は怖気づいているだけじゃありませんこと?」
「……なんだって?」
夫の眉が、ピクリと不快そうに動いた。私は笑みを深めて、夫をベッドへと引き摺り込む。
「大丈夫ですよ、経験がないのは恥ずかしいことじゃありませんわ……。私だって同じです」
「い、いや、私は…………」
「お互い初めての結婚相手なんですもの、失敗するかもしれませんけれど……私、あなたと一緒に夜を過ごしたいのです」
「いや、だが…………」
「…………まさか、ヴィクトル様は、不能でいらっしゃいますの?」
「っ、そんなわけがないだろう!」
私が心底驚いたようにそう煽ると、夫は眉間に皺を寄せて大きな声で否定した。
私はその姿を見て、思わず笑いそうになるのを我慢する。
「私は不能ではない! その証拠に、経験だってある!」
_____きた、この瞬間を待っていたのよ!
「そ、そんな……! 他の女性を抱いて、妻の私を抱いてくださらないなんて……私には魅力がないのですか!?」
「ぐっ……! ち、違う、私は君のことが大切だから、」
「言い訳なんて要りませんわ! うぅっ……! すみません、な、涙が……。わかりました、ヴィクトル様は私を愛してはいらっしゃらないのね……ごめんなさい、今夜は一人で休んでもよろしいでしょうか……」
私の言葉に、夫がぎくりとする。
「だ、だが、それでは使用人に怪しまれるだろう?」
「怪しまれるも何もありませんわ、だって事実なのですから……! もう、今日は一人にしてくださいませ、そうでなければ、私は実家に帰らせていただきます……」
「わ、わかった! 君を不安にさせて、悪かった。だが、本当に君のことを愛しているし、大切にしたいんだ。信じてくれ」
「……」
涙を流しながら離縁を仄めかすと、夫は焦ったように言い訳を並べてから、部屋を静かに出て行った。
「……ふ、ふふ、あっははは……!!!」
私はもう、笑いが止まらなかった。
なんだ、こんなに簡単なことだったのね。一度目の私は彼に嫌われたくないあまり、下手に出過ぎてしまっていたけれど……。
普通に考えて、初夜に妻を抱かないなんて失礼極まりないもの。それに、夫が他の女性を抱いたことがあるという言葉も引き出した。
あとはこの言葉を、上手く「使う」だけ。
「さて、寝ましょうか……今日は良い夢が見られそうね。……明日朝起きたら、やっぱり全部夢でした、なんてことが、ありせんように……」
唯一それだけが心配だったけれど、きっと大丈夫。
なんとなく、そんな予感がしていた。
***
チュンチュン、という可愛らしい小鳥の鳴き声と、窓から差し込む朝日で目を覚ます。
一夜明けてもやはり私は生きていて、部屋だって昨日と全く同じ。
……今更だけど、私、本当に生き返って……いえ、時間が巻き戻ったんだわ。
昨日は正直、それどころじゃなくて状況をすんなり受け入れてしまったけれど……よく考えると変な話よね。時間が巻き戻るなんて、聞いたことがない。
それこそ、魔法みたいな話だわ。そんなこと、ありえないと思うけれど……。
……いつの日か、真相がわかる日が来るのかしら?
まぁ、今はわからないことを考えていても仕方がないわね。
そろそろ侍女が来るはずよ。一度目の初夜とは違って、夫は部屋にいないのだけれどね。
____コン、コン、コン
「失礼いたします。奥様、旦那様。朝のお支度のお時間でございます。部屋の中に入ってもよろしいでしょうか?」
「えぇ、どうぞ」
私の返答から一泊置いて、侍女が部屋に入ってきた。
それから、ベッドを見て目を見開く。
「奥様……お一人だけですか? 侯爵様はもうお帰りになられたのでしょうか」
あぁ、想定通りの反応をありがとう。名前は確かサラ、だったかしら。
この子は確か、新人メイドだったはず。だったら……仕掛けるのは、今ね。
「いいえ、その……旦那様は、昨夜何もせずに帰ってしまわれたの」
「えぇ!?」
「どうしてかはわからないけれど……旦那様は私のことを、そういう対象には見ることが出来ないみたい……」
悲しそうに俯きながらそう告げると、サラはアワアワしながら私のもとへ駆け寄った。
「き、きっと昨日は体調が悪かったんですよ! だって、奥様はこんなにお美しいのですから!」
「……ありがとう、そんなこと言ってくれるの……サラだけよ」
少し悲しそうに、けれども儚さを感じさせる表情を作って、サラに告げた。
サラは捨てられた子犬のような瞳で私を見てから、大きく口を開いた。
「大丈夫です! 侯爵様が夢中になるよう……これから毎日、頑張りましょう! このサラ、精一杯尽力いたします!」
____純粋な子ね。
あまりの必死さに、なんだか肩の力が抜けて、ふっと笑みが溢れた。
……この侯爵家には敵しかいないと思っていたけれど、案外そうでもないのかもしれない。
もしかしたら、一度目の人生で私が死んだ後、悲しんでくれた侍女もいたのかしら。
……そうだったら少しは救われるわね。
それに、サラはきっとこのことで私を「可哀想な奥様」だと思うでしょう。
そうすれば、同情を買うことが出来る。
……純粋なあなたを、利用することになってごめんなさい。
それでも、死んでから初めて、他人の温かさに触れることが出来て……。
私の心は、少しだけ解れたのだった。
「……サラ、朝の支度をお願いできるかしら」
「はい、もちろんです」
____この後は、夫との初めての朝食が待っている。
一度目の人生では、この朝食会で私はあることをして大恥をかいた挙句、夫にフォローまでされてしまったのだ。
そのせいで、私は夫に心を許してしまった。
けれど今日は絶対に、前回の時のような『失敗』は繰り返さない。
生まれ変わった私を、よく見ておくといいわ。……ヴィクトル・クラウゼン侯爵。
***
ダイニングルームの前の扉に立った瞬間、私の足が急に鉛のように重くなった。
呼吸が、苦しくなる。
さっきまで、あんなに強気だったのに。
____でも、当たり前よね。私にとって、ダイニングルームはトラウマそのものなんだもの。
私が、裏切られ、捕らえられた場所。
そして、意識を失った場所……。
私にとって、一番新しい記憶。
でも、ここで立ち止まるわけにはいかない。
弱い私とは、さよならするの。
使用人が扉を開ける。
私は深く息を吸ってから、昨日と同じ笑顔の仮面を貼り付けて、ダイニングルームに足を踏み入れた。
「……おはようございます、ヴィクトル様。お待たせしてしまい、大変申し訳ございません」
「おはよう、シャーリン。ちっとも待ってなんかないさ」
既に夫は席に着いていたようだ。これも、一度目の人生と同じね。
私も執事に椅子を引かれ、着席する。
まずは給仕が温かいスープを運んできて、私はわざとらしく喜んだ。
「わぁ、とても美味しそうなスープですわね」
「はは、そうだろう。じゃあ、いただくとしようか」
「はい、そうしましょう」
愛も情もない空っぽな会話をして、震える手でスープを口に運ぶ。
大丈夫、大丈夫、薬が盛られるのは今から一年以上先よ。このスープは大丈夫、だから、勇気を出すの。
そんなふうに自分を勇気付けながら、ゆっくりと飲み込む。
____温かくて、美味しい。
なんだか、涙が出そうだった。強がっていたけれど、私、ちゃんと怖かったんだ。
「……シャーリン、どうかしたか?」
「いいえ、スープが、あまりにも美味しくて……」
「はは、それだけで泣きそうな顔をするなんて……シャーリンは心が綺麗なんだな」
「……ふふ」
私は笑って誤魔化しながら、なんとかスープを完飲したのだった。
____さぁ、ここからが正念場よ。

