伝説の鬼姫さま、溺愛されています!〜地味子を演じて平穏に生きたいのに、最強のあやかし達が放っておいてくれません!〜

――お願い、神様。今世こそは、私を「普通」にしてください。
目立たず、騒がれず、隅っこでひっそりと咲く道端の草のように。
それが、元・伝説の鬼姫『氷花』である私の、たった一つの切実な願い。

♡♡♡

「鈴花、起きなさい!もう、鈴花〜早くしなさい!」
「ん……っ、おはようーお母さん!」

朝の眩しい光が部屋で輝く中、私、白雪鈴花(しらゆきすずか)は起こしてくれたお母さんの待つリビングへ向かう。
着くとそこには呆れ顔のお母さんとそんな私達の様子を見て笑うお父さんの姿があった。
些細な親子の何気ない日常のひととき。しかし、それは私にとっては特別なものでもあった。

「お母さん!お父さん!おはようっ」
「おはよう、鈴花。今日は受験結果の発表日だったな」
「うん!そうなの」
お父さんの問いかけに私は元気よく答える。
その横でハァっとため息を出すお母さん。
「全く、この子ったら……緊張感もなく、私は心配ばかりが増えてくわ」
そう言っているお母さんに私は満面の笑みで答えた。
「大丈夫だよ、お母さん!私、これでも平均点レベルの実力はあるから」
そんな私の様子を見て、更にお母さんは先程より深いため息をついた。

あれ……なんか駄目な子を見る目線を向けられている。なんでだろう?

心の中で疑問を抱くも口には出さずにゆっくりとテーブルまで行き、朝ごはんを食べる。
温かい白ご飯に、甘いだし巻き卵や焼き立ての魚……そして身体の芯まで温める美味しい味噌汁。
この何気ない時間が今の私の生きがい。
朝ごはんを食べ終え、掲示板を見に行く準備を済ませる。
ボサボサの長い髪と重たい前髪に眼鏡……よし、準備完了!
「じゃあ、行ってくるね!」
明るく元気のある声がリビングに響く。お母さんもお父さんも微笑んで手を振って送ってくれた。
綺麗な青空が視界を埋めるなか、私は学校まで向かう……とは言っても今日は登校とかではなく、高校受験の合否結果を見に行くため。
私の周りの子は「緊張する〜」と言いながらも楽しそうな表情で合否を見に行っていた。
これを私がすると、お母さんには「緊張感がなさすぎる」と呆れられてしまう。
歩きながらこんなことを考えているなんて……呑気だと言われてしまいそう。
でも、私は受かっている自信がある。
そんな自信を胸に高校までの道のりを歩く。
長い道のりを歩き続け、高校に着いた。私は、人が集まっている掲示板まで向かう。
大勢の隙間をすり抜けるように進み、前まで到着した。
早速、受験番号を探す。真ん中の辺りに私の受験番号があった。

良かった、受かっている!

安心と喜びで顔が緩む。これで、私の平穏な高校生活が約束されたようなものだから。
この学校は、私の住む地域でも人気でアットホームな雰囲気がある。校舎には大きな図書館や体育館もあり、学校の周辺には美味しいパン屋さんもある。
まさに天国のような場所。
私は早速、高校の近くにあるパン屋さんへ入る。
美味しそうなパンが視界を埋める中、私は当店オススメと書かれていたメロンパンを買って食べる。
ふわふわの生地と程よい甘さが私の心を満たしてくれる。
こんな美味しいパンを気楽に食べに行けるなんて……幸せ。
帰り道、幸せの余韻に浸りながら、これからの高校生活を想像して胸を高鳴らせる。
しかし、この夢のような生活は来ることがないのだとこの時の私には知る由もなかった。

長い道のりを経て、家に着き、両親に合格を報告して喜び合っていた時。
明るいリビングからチャイムの音がなった。
お届け物かと思い玄関へ向かった。扉を開くとそこに居るのは配達員ではなく、高級そうなスーツを着た人達がいた。
しかも、後ろには高級車が止まっている。
その光景を見た瞬間、私は嫌な予感がした。
「あの……どちら様ですか?」
「白雪鈴花様でお間違い無いでしょうか?」
私が頷くと彼らは微笑みながら家の中に居た両親を呼ぶ。
その声に両親は玄関まで来て、私と彼らを見て何事かと目を見開いた。
「も…もしかして、うちの娘が何か不届きなことでもしましたか!?」
失礼なことを言うお父さんの言葉に彼らは笑いながら首を横に振る。
「いいえ、お父様。そのような悪い報告ではなく大変喜ばしい報告を伝えに参りました」
そう言い、彼らは私に一通の封筒を渡す。
開けるように促され、中を見てみると一番上に特別推薦という文字が見えた。
「あの、これは……?」
驚きを隠せない私に彼らは微笑みながら言った。
「おめでとうございます。貴女は『国立・八百万学園(こくりつ やおよろずがくえん)』に、国からの特別推薦で合格されました」
その言葉を聞いた瞬間、私の頭は真っ白になる。
八百万学園
国内で唯一、あやかしと人間がともに通う学園。
国内のあやかしならば誰でも入学可能、人間は国や組織が選んだ優秀な者のみが入学を許される、全寮制の聖域。
正直、何故私が選ばれてしまったのか。詳しい選定などは分からないけど……どうやら私は特別推薦枠として選ばれてしまったんだ。
でも、私はこの学園に行きたくない。
理由は簡単で、あやかしがいるから。
今世の私はただの少女……人間でも前世ではあやかし。そのせいか、普通の子たちとは違い、霊力が高い。
八百万学園には優秀なあやかしが居ると聞いたことがある。
もしかしたら、前世の知り合いの孫とか末裔が沢山いるかもしれない。
そうなったら私が普通の人間ではないことがバレちゃうかも。
もしも、私に前世の記憶があって、しかもあやかしだったなんてバレたら……平穏に過ごせるはずがない。むしろ真逆の人生になってしまう。
平穏を望み続けている私にとって、それは絶対に嫌だ。
私は必死に断ろうとしたが、役人は無慈悲にも会話を続けた。
「推薦は絶対なので、受かった高校ではなく必ず八百万学園へ入学してください。辞退は出来ませんのでお忘れなく」
そんな無責任な言葉を残して、彼らは行ってしまった。
残された私達は静まり返ったがすぐに両親が「凄いことじゃない!嬉しいわ」と歓喜の声をあげる。
八百万学園に入学することはとても名誉あることだと言われている。
普通の……特に人間ならば誰もが喜ぶ。
でも、私は素直に喜ぶことが出来なかった。
今世ではあやかしとは関わらずに普通の……誰もが経験する人生を送りたいと思っていた。
高校でも今まで通りに家から学校へ通い、勉強して、友達と一緒に帰ったり遊んだりして……そんな何気ない日常を過ごしていくのだと思っていた。
八百万学園は家からも遠く、全寮制のため我が家から離れなくてはいけない。つまり、一人暮らし。
アルバイトが可能なためお金のことはなんとかなるけど……中学時代からずっと思い描いていた高校生活は、特別推薦の決定のお知らせとともに散ってしまった。
それからの私の日々はあっという間だった。
中学を卒業して、学園に持って行く必需品の準備や入学の支度、寮生活の準備。そして、思い出つくりの旅行など……最後の幸せなひとときは夢のように過ぎていった。