────たとえば、離れ離れになったこの7年の間に彼がわたしのことを綺麗さっぱり忘れてくれていたら。
わたしのしたことは消えないけれど、それでもいくらか楽になったかもしれない。
深い罪悪感に溺れる傍ら、わたしは心のどこかでそんな逃げ道を探していたのだと思い知らされる。
だけど、叶人くんは忘れてなんかいない。
むしろ片時も忘れることなく、雨の中を生き続けてきたのかもしれない。
わたしを恨んでいてもおかしくなかった。
少なくともわたしという存在が、彼の中では強く残り続けていた。
あのしおりがその証拠だ。
「だから帰ろう? 一緒に」
逃げも隠れももうできない。
舞台という名の処刑台に上げられたわたしに、取れる選択肢なんてひとつしかなかった。
◆
「ねぇ、叶人くんって羽衣のこと好きなんじゃないの?」
唐突にも思える日和の言葉は、けれど休み時間のひと幕を目の当たりにした以上、涼にも十分理解できた。
納得できるかどうかは別として。
放課後、昇降口までの廊下を歩きながら涼は不服そうに目を細める。
「……おまえさ、どっちの味方なんだよ」
「えー、何の話? 涼は“別に”って言ってたじゃん」
わざとらしい反応を受け、はぁ、とため息をついた。
油断も隙もないし、羽衣の前で何を言い出すかとはらはらさせられる。
「でも正直、揺れないわけないと思うんだよね。何があったかは分かんないけど、転校生ってだけでも注目の的なのに、超がつくほど美男子でおまけに性格もよかったし。王子さまみたいで」
それは恐らく、あの休み時間の続きを思い返しているのだろう。
教室に喧騒が戻った頃、叶人は涼と日和のそれぞれに向き直った。
『あ、邪魔してごめんね。ふたりとも羽衣の友だちだよね。この前の帰り道でも一緒だった』
『えっ、覚えてた? そうそう、そうなの! あたしは夏目日和で、こっちは篠崎涼。よろしくね、若宮くん』
うれしそうに声を上げた日和がそう言うと、叶人は改めてふたりに目をやり微笑んだ。
『夏目さんに篠崎くん、ね。覚えたよ』
『日和でいいよ! あたしも名前で呼んでいい?』
『もちろん』
そんな彼の微笑みはまさに完璧と称するにふさわしかった。
警戒半分に様子を窺っていた涼でさえ、思っていたより叶人の人あたりがよく、親しみやすさすら覚えてしまうほど。
それでも警戒はまだ解けきらない。
何となく素直な見方ができないのは、羽衣からあんな話を聞いていたせいだろうか。
それとも、日和の口にした“ライバル”という言葉のせいだろうか。



