消して、奪って、きみだけを


 何も言えないでいるわたしを見て、日和がそう言った。
 探るというよりはふと思いついて口をついたという雰囲気だった。

「おい。別にいま聞かなくていいだろ、そういうのは」

「ごめんごめん! そんなつもりじゃなくて。いや、ただ少女漫画みたいだなって思っただけなの」

 相変わらず気を配ってくれる涼と慌てる日和を見て、わたしもたまらず口を開く。

「わたしこそごめん、ちゃんと話せなくて……。涼の言う通り、叶人くんは小学校のときの幼なじみなの。3年生のときに、その……叶人くんが転校していっちゃって」

「それ以来なんだ?」

「そう。……どうしてるのか、ずっと気になってた」

 気づいたら、またうつむいていた。

 それはほとんど“会いたかった”と変わらないはずなのに、いざ本当に会ったら会ったでこんなに苦しいとは思わなかった。

 彼を取り囲む人だかりが、あの日の大人たちと、傘の盾を手にした兵士たちと重なる。
 厚くて高い壁に阻まれているみたい。

 だけど、もしいま彼がひとりでいたとしても、きっと声なんてかけられないだろう。

 7年間、ずっと伝えなきゃいけない言葉を抱え続けてきた。

 いつか会えたら、と夢を見るたびに願ってきた機会がようやく巡ってきたのに、わたしはまた隠れてやり過ごそうとしている。
 面と向かったら逃げ出してしまうかもしれない。

「……涼、しっかりしなきゃね。強力なライバル出現じゃん」

「おまえ……言うなっつっただろ、ばか」

 そんなふたりの会話が耳に触れたとき、ふと周囲の静けさに気がついた。

 さっきまでの喧騒を忘れたような静寂。
 ふっと視界に影が落ちてくる。

「久しぶりだね、羽衣」

 顔を上げると、目の前に叶人くんがいた。

 いつの間にあの輪を抜け出してきたんだろう。
 ひときわ穏やかな微笑みはどこかうれしそうにさえ見える。

 瞬きも呼吸も忘れた。
 涼も日和もまた、想定外の展開に面食らった様子で固まっている。

「叶人、くん……」

「よかった、やっぱり気づいてくれてたんだ」

 ほっとしたように表情を緩めて息をつく。

 まるで、わたしと彼だけが舞台上にいるみたいだった。
 多くの観客をものともしないで、眩しいくらいの笑顔を向けられる。

「今日、一緒に帰らない? きっと話したいことがたくさんあるよね。僕もそうだから」

「え……」

「ずっと会いたかったんだよ」

 今度は心臓を鷲掴みにされたような気がした。
 息をのむどころか、息が止まる。