消して、奪って、きみだけを


 未だ信じがたい気持ちで見つめていると、ふいに視線がぶつかった。

 わたしに気づいた彼は、ふわりと表情を和らげる。
 まるで花が開いたみたいな────そう感じたとき、彼の言葉が耳元で蘇った。

『またね、羽衣。近いうちに会えるよ』

 あれは、こういう意味だったんだ。
 理解すると同時に心臓が沈み込む。

 周囲のざわめきと囁き声がさざなみのように広がっていく。
 あの帰り道での日和みたいに、特に女の子たちが色めき立って盛り上がっていた。

 だけど、そのどれもが遠く感じられる。
 笑い返すことなんてとてもできず、彼の目から逃れるように下を向いてしまう。

 窓の向こうでは、いつの間にか雨が降り出していた。

 その水滴がガラスを叩くささやかな音でさえ、わたしを追い立てて責めているような気がした。



「ねぇ! あの転校生って、こないだの帰り道で会ったイケメンだよね?」

 休み時間になった瞬間、飛んできた日和にずいと迫られる。

 思わず叶人くんの方をちらりと一瞥(いちべつ)すると、クラスの大半に囲まれて人だかりができていた。
 それだけに留まらず、廊下にはほかのクラスの女の子の姿まである。

「あ……うん、そう」

 それ以上に言葉を続けられず、頷くことしかできなかった。
 日和は「やっぱり!」と手を打ち、近くの席から椅子を引っ張ってくる。

「それで、どういう関係なの? こないだは教えてくれなかったけど、絶対ただの知り合いとかじゃないでしょ?」

「幼なじみ」

 そう答えたのは、わたしではなく涼だった。
 空いたわたしの隣の席に腰を下ろし、叶人くんの方を億劫(おっくう)そうに見やる。

「いっつも羽衣に変な顔させる幼なじみ。だろ?」

「変な顔なんてしてないってば」

 冗談半分ではあるものの、その推測は合っていた。
 苦笑して言い返しながらうつむく。

「幼なじみ? へぇー、そんな人が涼以外にもいたんだ。じゃああんたも知ってるの?」

「いや、直接は。小学校のときの同級生なんだろ? 俺とは中学からだから」

「そうなんだ。じゃあ、運命の再会ってやつ?」

 どくん、とまたしても心臓が沈む。

 日和が楽しそうに言うけれど、さすがにそれを笑い飛ばせるほどの胆力(たんりょく)はなかった。
 それもまた、ある意味では間違っていないから。

「……もしかして、何かあった?」