消して、奪って、きみだけを


「……そういえば、桜木さんって苺好きなの?」

「えっ、どうして?」

 唐突な質問に目を(しばたた)かせると、高橋くんは「いや、別に」と少し慌てている。
 自然と甘酸っぱい香りが鼻先に蘇ってきて小さく笑った。

「好きだけど、苺そのものっていうよりは苺味が好きなのかも。最近は特にワッフルが好きでね────」



     ◆



 高橋と談笑する羽衣に目をやりつつ、リュックを下ろした涼は席についた。
 間髪入れず目の前に人影が滑り込んでくる。

「バレバレだねー」

 楽しげに言いながら前の席に腰を下ろしたのは日和だった。

「だよな? 高橋のやつ、最近やたら羽衣に話しかけててさ」

「高橋もだけど、あんたも!」

 振り向いて机に頬杖をつき、日和はにやりと笑みを深める。
 突然矛先を向けられた涼は目を瞬かせ、顔ごと背けた。

「いや、俺は別に……」

「うかうかしてると取られちゃうよー」

「だから、俺は別にそんなんじゃ……」

「はいはい、分かりやすいんだから。羽衣にバレないようにね。いや、いっそバレた方がいいのかな?」

 からかうような言い方で、またしてもにやりと楽しそうな眼差しを寄越される。

「うっせ。言うなよ」

「あたしを誰だと思ってるの? こう見えて応援してるんだから」

「本当かよ」

 得意気な日和にそう返したとき、ちょうど本鈴が鳴った。

 喧騒が尾を引く中、生徒たちがまばらに席へと戻っていく。
 意味ありげな目配せを残しつつ引き揚げる日和を、涼は顔をしかめて見送った。

 ややあって担任が教室へと入ってきた。
 数学担当で、持ち前の明るさから人気の高い若手の男性教師だ。

 挨拶が済んで全員が着席すると、担任は「よし」と口火を切った。

「突然だけど、転校生を紹介します。今日からこのクラスの仲間として仲良くな」

 途端に教室内がざわめきに包まれる。
 それを制するのもそこそこに、担任は扉の方へ声をかけた。



     ◇



若宮(わかみや)叶人くんだ」

 そんな先生の声は耳の表面を上滑りしていった。
 それなのに、黒板の前に立つ彼がわたしの意識を捉えて離さない。

 ────最後に会ったのは、7年前のあの雨の日。

 会ったというより一方的に見ていただけで、飲み込んだ言葉で胸が苦しかった。

 改めて見ると背が随分と伸びているし、雰囲気も大人っぽくなった。
 だけど、その綺麗な顔立ちからはやっぱりあの頃の面影が窺える。

(叶人くんだ、本当に……)