────美怜ちゃんは騙そうと思って怪我を涼のせいにしたわけじゃないと思う。悪意とかじゃなくて……たぶん、それ以外に方法を知らなかったんだよ。
いつかの羽衣の言葉が耳の奥で優しく響いた。
誰かの心を得る方法、そして、誰かを繋ぎ止めておく方法を。
以前、友だちはいないと言っていた。
たぶん、好きなやつだってこれまでいたことがなかったのだろう。
真っ当な関係構築の過程を知らず、他人の気持ちに鈍感で、期待しないことでしか自分を守れなかったから。
手段を選ばず、というより間違え続けた結果、自分にも相手にも傷しか残らなかった。
立原は顔を伏せたまま、とめどなくあふれる涙を拭う。
それが何の涙なのか、どうしたら止まるのか、それも分からないで戸惑っているように見えた。
俺はひとまずその肩に手を添え、壁際の隅へと連れていった。
登校してきた生徒たちの好奇の目に触れないよう、自分の背中が壁になるようにして立つ。
「……あー、何て言うか」
言葉を探しつつ、困ってしまいながら後頭部を搔いた。
────感情は迷子のまま、どこに着地するのか俺自身にも読めない。
しかし、いま水面に浮かんでいる率直な思いに委ねてみる気になった。
「本当にただ不器用なだけなんだな、おまえって」
腹が立っていたのは確かなのに怒りは沸騰してこないし、ショックだったのは事実なのに責める気にもならない。
もうまったく気にしていない、とは言えないが、最初より角が削げて和らいでいる。
「ごめん、なさい……」
小さい子みたいに泣きじゃくる姿を見て、小さく息をつく。
こんなにも必死になるほど、あんなにも窮屈に縛りつけなければならないほど、ひとを大切に思うことは不自由なもんじゃない。
誰かを求めることは罪ではないと、知って欲しい。
「……泣くなよ。分かったから」
そう言うと、立原はおずおずとこちらを窺う。
不安定に揺れるその双眸を見据えた。
「ありがとな、話してくれて。そうとは知らず、俺もひどいこと言って悪かったよ」
それを受け、懸命に首を横に振った立原に小さく笑い、肝心の言葉を繋ぐ。
「それと……別に、嫌いになったわけじゃねぇから」
はっと目を見張った立原が、弾かれたように顔を上げる。
一度泣いたことで、まとっていた鎧が流されたみたいだった。
自分自身も身動きが取れなくなるほど厚く重く頑丈なそれには、守られるどころか潰されかねなかったんじゃないだろうか。
「まあ……喧嘩みたいなもんだよ、俺にとっては」
「喧嘩……?」
「そう、喧嘩。その程度のもんだからもうおまえは気にすんな」



