「わたし、だから……?」
「そう。美怜ちゃんのこともっと知りたいし、もっと仲良くなりたい」
そう言ってそっと手に力を込めると、彼女はしばらく口をつぐみ、握られた手をじっと見つめた。
強張っていたその顔がだんだんとほどけていく。
こんなにうれしそうな表情も、そんな笑い方も初めて見た。
そのことがわたしもうれしくて頬を綻ばせると、美怜ちゃんは顔を上げる。
「叶人に何かされたらわたしに言って」
その言葉を受け、それまで成り行きを見守っていた叶人くんが呆れたように息をつく。
「僕がそんなことするはずないでしょ。羽衣に嫌われるようなことなんて」
「どうかな。叶人の悪口ならいくらでも話せるよ」
「へぇ? 心当たりないけど」
そんなやり取りを聞いて、思わず笑ってしまう。
美怜ちゃんに対する叶人くんは随分と率直で、わたしの知らない顔をしている。
そんな一面を見たら寂しく感じるものかと思っていたけれど、むしろ新鮮で微笑ましかった。
「────ところで、あれから涼と話した?」
窺うように切り出すと、美怜ちゃんは視線をさまよわせるようにして目を伏せた。
力なく首を横に振る。
「……やっぱり、無理。嫌われたし、わたしの言葉なんて聞いてくれるわけがない」
「そんなことないよ。こないだも言ったけど、涼なら絶対に聞いてくれる」
間違いなく、あのときより強い確信を持ってそう言えた。
不安気で、半分はもう既に諦めてしまっているような彼女を見据える。
「保証する。涼もどこかで美怜ちゃんのことを気にかけてると思う。絶対に伝わるから」
傷ついたまま、傷つけたまま、すれ違ったまま、適当に流して済ませられないのが涼なのだ。
いまもきっと機会を探しているはず。
楽になりたいんじゃない。
傷を雑に縫合するためじゃなく、傷口を開いてでも相手と向き合うため。
鬱々と押し黙っていた美怜ちゃんは、ややあって目を上げた。
不安そうではあるけれど、控えめながら芯のある声色で言う。
「分かった。あなたが言うなら……信じてみる」
◆
朝、昇降口へ入ると、壁沿いに佇んでいた立原と目が合う。
あ、と思って顔を逸らし、つい止まりかけた足をそのまま踏み出した。
まさか俺を待っていたわけじゃないよな、なんて誰にともなく胸の内で尋ねながら、視界から逃れたくてさっさと靴箱の方へ向かう。
「待って」



