消して、奪って、きみだけを

     ◇



 放課後、叶人くんとともに教室を出た。

 何かいいことでもあったのか、雨上がりの空みたいに澄みきった横顔を見上げる。
 尋ねてみようとしたとき、背後から声をかけられた。

「────決めたんだ?」

 振り向いた先にいたのは、美怜ちゃんだった。

 いつものように無色透明な表情ながら、どこか重たげな雰囲気をまとっている。

『あなたが決めるしかないんじゃない? 思い出すか思い出さないかも、彼のやってきたことを知った上でどうするのかも』

 以前、彼女にかけられた言葉を思い返して、そっと頷いた。

「決めたよ。後悔はしてないし、するつもりもない。ちゃんと向き合えてよかった、って……いまはそう思ってる」

 小さく笑みをたたえながら揺るがず告げると、美怜ちゃんは「そう」と静かに頷く。
 叶人くんが不思議そうな表情でわたしを見やった。

「何の話?」

「内緒」

 答えたのは美怜ちゃんだった。
 彼女はそれから叶人くんを見て、どこか眩しそうに目を細める。

「おめでとう。ようやく報われたんだ。彼女、唯一で一番の理解者でしょう? ……運命みたい」

 一見、普段通り淡々とした声色だけれど、何だかまるでいまにもほつれてしまいそうな糸のようだった。
 そんな不安定な響きを感じられた。

「よかったね。あなたには桜木さんがいてくれて……」

「美怜ちゃんもだよ」

 叶人くんが何か言うより先にそう言っていた。
 散り際の桜より儚い、いまにも消え入りそうな表情と声色にたまらなくなった。

「美怜ちゃんの存在も、叶人くんにとって必要だったはずだよ」

 彼女が“戦友”と称していたように、きっと叶人くんも、孤独な日々の中でその存在が救いとなっていたはず。

 寄り添い合うような形じゃなくても、一緒に世界を睨んできたからこそ、飾らない本音をぶつけ合えるんじゃないだろうか。

「なに、それ。どうしてあなたが……」

「わたしも……美怜ちゃんの友だちだから」

 ゆらゆらと惑う瞳をまっすぐに受け止め、その手を取った。
 冷たそうに見えた彼女の手は思っていたより何倍もあたたかくて、そして小さかった。

 ────……あなたがそんなことを言い出す意味が分からない。同情ですか? それとも、偽善?

 以前、不信感を全面に押し出しながら拒絶されたことを思い返すと、その痛みごと蘇ってくる。
 けれど、たぶんそれはわたしだけのものじゃない。

「同情でも偽善でもない。わたしは、美怜ちゃんだから友だちになりたいと思ったの」

 そう心のままに伝えても、いまもまだためらいが窺えた。
 信じていいものか、恐れるようにわたしの目を見つめて真剣さを測っているみたい。