「おい、日和……」
熱が入るあたしに困惑し、なだめるように涼が口を挟む。
だけど制するように一瞥も返さず、叶人くんをまっすぐに見据えた。
彼は目を伏せたまま押し黙っている。
「悪いけど、これがあたしの本音だから。羽衣の好きな人だろうと、羽衣が許そうと、そんなすぐに仲良しこよしなんて無理。謝ったら綺麗に解決なんて……」
自分のしたことを省みているのが本心であっても、ここでただ謝罪を受け入れたんじゃあたしが報われない。
負わされた傷だって、痛みだってまだ完全には癒えていないのに、簡単に流したらあたしの心が悲鳴を上げ続ける。
かりそめの平穏のために差し出せる心はない。
「だから────」
あたしも叶人くんの方へ歩み寄った。
「これからなろうよ、友だちに」
そう言うと、悄然としていた彼の瞳が揺れる。
いままでになく驚くくらい素直なせいで、張っていた気もいくらかほどけていく。
「あんたのこと、これからちゃんと知っていくから。あんたもそれで知ってよ、あたしのこと」
あたしも彼も、まだ何も知らない。
最初から存在だけで互いを脅威に思い、焦りと敵意を肥やして拒絶した。
彼のやり方は突き抜けていたけれど、知ろうともしなかったという意味ではあたしも同じだった。
「いいきっかけでしょ? まあ、もう負けないけどね。あんたが何しようと、あたしも羽衣のそばにいる」
堂々と言ってみせると、自分が自然と笑みをたたえていることに遅れて気がついた。
すべての感情が浄化されたわけでも、快い感情ばかりが残ったわけでもない。
それでも、ふつふつと滾っていた心に、いまは爽やかな風が吹き抜けていった。
それが清々しい。
何となく、涼が浮かべていた透き通った笑顔の意味が分かったような気がした。
「……俺も。羽衣の友だちだからな」
そう言った涼はおもむろに叶人くんを見やる。
「そんなしけた顔、あいつに見せんなよ?」
からかうようなその口調にも、あたしや涼の言葉にも、叶人くんは驚いたように戸惑っていた。
ひたひたに隠していたそんな脆く弱い一面が垣間見えると、尖りのようなものが削げ落ちていく。
あたしたちをそれぞれじっと見つめると、彼はほっと安堵したように表情を緩める。
「……ありがとう」
それは、いままで見た中で一番綺麗な笑顔だった。
完璧な仮面は割れ、無邪気で影のない澄んだ色をしている。
思わず涼と顔を見合わせ、肩をすくめた。
「こりゃ敵わないわけだ」
「本当、悔しい限りだね」



