消して、奪って、きみだけを


 叶人くんは口をつぐんだまま、涼の言葉を慎重に受け止めているみたいだった。

「いくら羽衣のためだったとしても、もちろん肯定する気はねぇよ。腹も立ったし。けど……それとこれとはまた話が別なんだよな」

「え……」

「おまえのこと、だからって嫌いにはなれねぇんだよ。これも悔しいけど」

 そう口にしてから小っ恥ずかしくなったのか、涼はうなじに手を添えて顔を背けた。
 ばつが悪そうに眉を寄せている。

「……羽衣のせいだな。苺のワッフルと同じで」

 なんて呟くものの、不思議と悪い気はしていなそうに見えて肩の力が抜けそうになる。

 涼の言葉を受けた叶人くんの表情からも、思い詰めたような暗い色が薄まったのが見て取れた。

「もう……調子狂うなぁ」

 たまらずぼやき、腕を組んだ。
 あたしの心を覆っていた(ろう)まで徐々に剥がれ落ちていくけれど、いまさら止める(すべ)なんて知らない。

 叶人くんを見やると、さまようような眼差しが返ってくる。

「……それでも、羽衣にはぜんぶ打ち明けたんでしょ? ぜんぶ思い出して、知った上であんたを選んだ」

 その事実を確かめるように言葉にした。

 記憶を奪って現実を歪ませた産物ではなく、真実と過去を土台に前へ進んだ結果だ。
 ほかならぬ羽衣の意思だ。

 分かっていても、力が入っていく。

「あたしは……正直、あんたのことまだ理解しきれてない。あんたにされたことを思えばムカつくし、最初から気に入らなかった。急に現れて、あたしの居場所ごと奪われたみたいで」

 ()き出しになった本音は火傷するほど熱くて、あたし自身も手に負えなくなりそうだった。

 こらえて、こらえて、あふれてこないようにおさえ込んでいた感情が溶解(ようかい)する。

「だって、羽衣が頼ってくれるのはあたしだったのに。あの子を支える役目はあたしのはずだったのに……」

 彼はあたしよりうまく、深く、羽衣に刺さる形でぜんぶやるから。
 どうしようもなかった。
 羽衣との間に当たり前に存在していた日常から、だんだん押し出されていっても。

「苦しかったよ。羽衣のそばであたしがやってきたことの意味も関係性も、ぜんぶ上書きされるんだもん。あたしはもう不要だって言われてるみたい。この気持ちが分かる……!?」

 彼が塗り替えていたのは羽衣の記憶だけじゃない。
 だからこそ、痛くてたまらなかった。