「涼はいつもわたしを守ろうとしてくれてたよね。本当にありがとう。でも……いつまでも守られるだけじゃ嫌だ」
怖くて声が震えそうになる。
わたしの言葉が、彼の傷を開いてしまうかもしれない。
だけど、それを恐れて本心を偽ったら意味がない。
「わたしは……これからも、涼の一番の友だちでいたい。堂々とそう名乗れる自分でいたい」
そう口にしてから、はたと俯瞰した。
目を見張った彼の眼差しの深さに遅れて気づいて慌てる。
「ご、ごめん、こんな勝手なこと……。わがまますぎるよね。怒っ、た?」
自分が浅ましく感じられて、心の中で沈殿していた恥ずかしさや申し訳なさがかき混ぜられる。
おずおずと窺っていると、ふっと涼が笑った。
「ばーか、その逆だよ」
軽く弾かれた額を押さえながら、戸惑ってしまう。
そんなわたしを見て、彼はさっぱりと澄んだ笑顔で続けた。
「やっぱ、おまえと半分に分け合うのは俺しかいねぇからな」
「涼……」
「俺は、おまえが幸せならそれでいい。おまえが笑ってるのが一番だから」
どこまでも優しい言葉に心が震え、たまらず泣きそうになってしまう。
背中に感じていた陽だまりみたいなあたたかさが染みた。
「あいつに泣かされたら言えよ? 俺がぶん殴ってやるから」
なんて真顔で冗談めかす涼につい笑うと、彼もまた頬を緩める。
何となく苺味のワッフルが食べたい気分だった。
「……ありがとう」
何度実感したか分からないその思いを口にすると、涼はふと前を向く。
いつになく切なげな、それでいてどこか満足しているような横顔を見つめた。
「それを言うなら、俺の方こそ。……聞けてよかった」
清々しいような淡い笑みに、心が澄んでいく感覚がした。
無傷では済まなかったし、きっとかさぶたは残り続ける。
それでも“後悔”という一番深くて大きな傷だけは、跡を残さず綺麗に癒えていくだろう────。
いまは、そう信じられた。
◆
羽衣が登校してくるのを待つ間、バルコニーに出たら偶然にも涼がそこにいた。
傷心中かと思ったのに、案外吹っ切れたようなさっぱりした顔をしている。
「なーんだ、せっかくあたしが慰めてあげようと思ったのに」
「慰めにじゃなくてからかいにきたんだろ」
「ばれた?」
なんて笑うと、涼も呆れたふうを装って笑った。
無理をしている雰囲気でもなく、やっぱりちょっと意外に思ってしまう。
「残念だったな。そんなもんで塞ぎ込む俺でも、壊れる関係でもねぇよ」
「むしろ何かうれしそうだもんね。羽衣、何て言ってたの?」
「教えない」
そう言いつつも屈託のない笑顔をおさえきれていない。
この透き通った朝の空より晴れやかに見えて、つられるように頬を綻ばせたときだった。
背後で扉の開く音がして、ふたりして振り返る。



