消して、奪って、きみだけを

     ◇



「……じゃあ、思い出したんだな。ぜんぶ」

 バスを降りてから学校までの道中、確かめるように言った涼に頷く。

 記憶のこともあのあとのことも伝えたとき、真っ先に「よかった」と言ってくれた。
 ふと表情を和らげ、わたしを見やる。

「よかったよ、本当に。おまえが自分で決めたんだもんな」

 じんわりと心があたたかくほどけていくような感覚を覚えながら「うん」と答えた。
 その核を誰より大事にしてくれていたのは涼だと思う。

 記憶を守り、わたしの意思や選択肢を取り戻そうとしてくれていた。
 叶人くんの腕の中に閉じ込められて窒息してしまわないように、いつだって手を差し伸べてくれていた。

 だけど“わたしのため”だなんてひけらかしたり、気づかないで振り回してしまったわたしを責めたりすることもなく、そんなの当たり前だと言わんばかりなのが涼らしい。

 わたしの方こそ、彼がいてくれて本当によかった。

「つか、風邪ひいてないか? 雨の中走ってっただろ、おまえもあいつも……」

「大丈夫だよ」

 思わず小さく笑いつつも、さらりと叶人くんのことまで気にかけてくれていることが密かにうれしかった。

 過去のことを思うと、いっそう考えてしまう。

 わたし以外の世界とそのあたたかさにも触れて欲しい────わたしの大切な人たちは、叶人くんをいたずらに傷つけたりしない。
 そのことを教えたい。知って欲しい。

 それこそが、あの頃のわたしが生み出し、彼が完成させた檻を開ける鍵になると思うから。

「ありがとう、涼」

 噛み締めるように告げると、涼は一瞬面食らったように瞬き、居心地悪そうに逸らした。

「何だよ、改まって……」

「わたし、ずっと助けられてた。涼がいてくれるだけで心強くて、怖くないって思えるの」

 自分の過去や罪と、そして叶人くんと向き合うことができたのだって、涼の温もりを背中に感じていたお陰だ。

 その不器用な優しさにこれまで何度救われてきたことだろう。

 ────俺が好きなのはおまえなんだよ。

 あんなふうに彼が自分の感情をあふれさせたのは、あのときが初めてだった。
 だけど、それすらまともに受け取れず、いまも宙ぶらりんなまま。

 わたしが思い悩んで困らないよう、返事すら求めない。

 自分から触れないように、わざとタイミングが逃げていくように流し続けたら、いつか届かないくらい高くまで浮かび上がって音もなく消えるのだろうか。

 そんなのあんまりだ。
 こんなにまっすぐ想われていたのに、自分だけ無傷で報われようなんて。

 涼に不誠実なままでいたくない。

 彼の想いをなかったことにしたら、その痛みは彼ひとりに返ってしまう。
 逃げて、見ないふりをして、それで涼と友だちでいられる?