消して、奪って、きみだけを


「だから……あそこまでしたの?」

 周りの人を利用して、(おとしい)れて、遠ざけて、果てにはわたしの記憶からも追い出した。
 “唯一”の居場所になるために?

「……ごめん。記憶のことも、最初は確かに羽衣のためでしかなかったのに、だんだんその基準が崩れて……。自分のためのものになってた。羽衣の意思も無視して」

 叶人くんはうつむいたまま言葉を繋ぐ。

「羽衣を騙したことも、篠崎くんや夏目さんを傷つけたことも……間違ってた。ぜんぶ、身勝手じゃ済まない」

 やっぱり、彼に悪意なんてなかった。
 想いの深さゆえにそこまで不安が高じていたということにも理解は及ぶ。

 始まりが、わたしを救いたいという願いだったことは分かっている。
 その優しさはあの頃から変わっていない。

 けれど、それがいつしか彼自身の不安を満たすものになってしまった。

 確かに一線を越えた彼を無条件で許すことは、たとえ罪悪感に(さいな)まれていたとしてもできない。

 償うために許すなら、本当の意味で叶人くんと向き合っているとは言えない。

 それでも、涼や日和に対して罪の意識を持っていたことにも、そのことを自ら口にしてくれたことにも正直ほっとしていた。
 口を開きかけたとき、ふと叶人くんが顔を上げる。

「……一番大事なこと、見失ってたね」

 どこか愕然として泣きそうな表情が、ひどく痛々しくて戸惑う。

「記憶を奪ってまで、羽衣を縛りつけて不自由を()いた。あの日の続きを、理想を押しつけて……。奪ってたのは記憶だけじゃなくて、選択肢もだった」

 くしゃりと顔を歪めるようにやわく笑った。
 そんな表情は初めて見た。

「最低だよね。それじゃ、あの人と変わらない。羽衣の生き方も考え方も感じ方も、ぜんぶ否定して上書きしてるってことなのに……」

 そんな笑みすら崩れて、こらえきれなくなったように唇を噛む。

「何で気づけなかったんだろう。ただ羽衣を失いたくないだけだったのに。そばにいて欲しいだけだったのに……その方法が分からない」

 愛し方も守り方も分からないまま、その感情だけが彼の中で育っていったみたいだった。

 だからこそ、不安を埋めてもすぐに渇き、愛することにも愛されることにも怯えている。

「壊したのは、きみじゃなくて僕だったんだよ。もう……僕は必要ないね」

 儚い笑顔の仮面をとっさに貼りつけても、普段より脆かった。
 ひびだらけでいまにも割れてしまいそう。