思いのほか、騒ぎが大きくなってしまった。
わたしの声を聞きつけた近所の人が通報したのか、警察が駆けつけてきたのだ。
あっという間にものものしい雰囲気に包まれ、あたりは騒然となった。
警察は叶人くんの身体の傷に気づいたみたいだった。
わたしがこの家の子ではないと分かると、事情の説明だけ求めて強制的に自宅へ帰らされた。
半狂乱のような状態に陥っていたわたしは、要領を得ないながらも虐待の事実だけはどうにか伝えた。
その夜はずっと泣いていた。
警察の存在も彼らが来てからの不穏な空気も、言い知れない不安をかき立てて止まなかった。
これからどうなるのか、叶人くんは大丈夫なのか、手の痛みも忘れるほど激しく胸を渦巻いた。
警察から事情を聞いた母が“大丈夫”と背中を撫でてくれても、地面が抜けて延々と落下しているような感覚がひと晩じゅう続いて一睡もできなかった。
翌日も、その翌日も、叶人くんは学校へ来なかった。
担任は“家庭の事情”とだけ説明したけれど、一部のクラスメートの間では「ぎゃくたいされてたらしいよ」と噂になっていた。
放課後、たまらなくなって彼の家へ向かった。
警察の姿はなかったけれど、代わりに知らない大人たちが数人いた。
『叶人くんのお友だち? ごめんね、いまは会えないんだ』
メガネをかけた白髪混じりのおじさんが、屈んでわたしと目線を合わせ、申し訳なさそうに眉を下げる。
いま思うと、恐らく児童相談所か施設の関係者だったのだろう。
優しそうに見えたけれど、会わせないという意思は頑なで、いくら粘ったところで追い返されてしまった。
彼はいまこの家にいるのか。お母さんはどうなったのか。
そういうことを尋ねても何も教えてもらえなかった。
『叶人くん、いなくなっちゃうんだって』
────そんな噂まで囁かれるようになった頃には、叶人くんが学校に来なくなって1週間ほどが経っていた。
そして、担任から彼が転校するという旨を聞かされた。
わたしのせいだ。
地面が抜ける感覚が再びして、虚空へと投げ出される。
この間とはちがい、今度は途中に露出した岩肌のようなものに全身を打ちつけながら落ちていった。
わたしがあんなふうにお母さんと対峙して騒いだから、虐待が表面化し、警察や大人たちに知られ、クラスメートにまで噂されるようになった。
誰にも言わないで、と言われていたのに、その言葉を破って警察にも話してしまった。
だからこうして広く知れ渡り、叶人くんはここにいられなくなった。
わたしのせいだ。
わたしが余計なことをしたせいで────。



