『どうしてあなたなんか産んだのかしら。……本当、後悔しかないわ』
その言葉が耳に届いた瞬間、頭が真っ白になった。
怒りなのか悲しみなのか自分でも制御しきれない感情に突き動かされる。
何とかしなきゃ。彼を守らなきゃ────。
肩からかけていた水筒を下ろし、両手で強く握りながら振りかぶった。
思いきり窓に叩きつけると、ビシッ、と音がする。
放射状にひびが広がり、顔を上げたふたりがこちらを向いた。
『ちょっと……何してるの!?』
驚き慌てたようにお母さんが向かってくる。
もう一度振り上げた水筒を、わたしは力いっぱい窓に叩きつけた。
パリン! と音がして割れた真ん中あたりのガラスが散る。
水筒を放り捨て、思わずサッシに手をかけた。
透明に尖った歯みたいな破片が噛みついてきて血が滲んだけれど、そんなものはどうだってよかった。
『叶人くん!』
大丈夫? なんて問いかけは言葉にできなかった。
驚いたように目を見張ってわたしを捉える彼は、泣いていた。
とめどなく頬を伝い落ちていく涙は、傷だらけの心からあふれ出した血かもしれなかった。
『ちょっと────』
お母さんは飛び散った破片から庇うように覆っていた腕を下ろした。
うろたえながらわたしを認める。
『羽衣ちゃん? これは……どういうつもり?』
強引に貼りつけた微笑みは引きつっていた。
足がすくみそうになる恐怖を握り潰し、思いきり睨みつける。
『叶人くんに謝ってよ』
先ほど湧いた感情の熱がぶり返し、そう言った瞬間に泣きそうになった。
じわ、と滲んだ視界が揺らぐ。
『わたし、知ってるんだから! 叶人くんがどんな目にあって、どんなに我慢してがんばってきたか……! 叶人くんは悪い子なんかじゃない!』
心臓が暴れて、息が苦しかった。
ぼろぼろとあふれる熱い涙で火傷しそうになりながら、震える声でぶつける。
『なのに、どうしてそんなこと言うの!?』
脳裏に焼きついて離れないこれまでの叶人くんの姿が、表情が、言葉が、涙が、この破片みたいに散って蘇った。
突き刺さって抉れ、張り裂けた胸があまりに痛くて耐えられなくなる。
『もうやめてよ、ひどいことしないで! そんなこと言うなら……もう叶人くんのお母さんじゃなくていい!』
泣いて、叫んで、声が枯れてもまた叫び続けた。
必死で立ち向かった。
そうすれば、叶人くんの信じた優しいお母さんに戻ってくれると、叶人くんを守れると思った。
────けれど。



