翌日、叶人くんはいつもと変わらない様子で、わたしにだけ「おはよう」と言いにきた。
それきり、感情を抑圧したようなお人形になってじっと席に座っている。
そんな彼を見ていると、昨夜の光景が何度も何度も頭によぎり、放課後にとうとう限界を迎えた。
ふたりでの帰り道、叶人くんの腕を引く。
そっと袖を捲った。
昨日、アイロンのそばに置いてあったその服からは柔軟剤のいいにおいがした。
『……っ』
突然のことにはっと慌てた様子でよじった彼だったけれど、わたしは離すまいと両手でその腕を掴んだ。
痣だけじゃなく、赤く腫れた火傷の痕が痛々しく残っていた。
アイロンを押し当てられていたせいだろう。
『……お母さんにやられたんでしょ。こないだのあざも、本当は』
『ちがう。僕が悪いんだ。僕がだめな子だから……』
泣きそうな顔で声を震わせる彼を、思わず抱き締めた。
ぎゅう、と強くそうしたかったけれど、見えないところにまだ痣や傷があるかもしれなくてためらった。
『だめな子じゃない。叶人くんはだめなんかじゃないよ』
『でも……』
『これ、ぎゃくたいって言うんでしょ』
無意識のうちに腕に力が込もっていた。
叶人くんがわずかに身じろぎしたけれど、わたしの言葉のせいか、どこか痛んだせいか、分からなかった。
そっと離して顔を見ると、翳った瞳がゆらゆらと不安定に揺れている。
冷たいその手を握り締めた。
そうしていないと、いまにも崩れて壊れてしまいそうな気がした。
『わたし、謝りにいく。門限を破ったのはわたしのわがままなのに、叶人くんがこんな目にあうなんて……』
『羽衣ちゃんのせいじゃない。来たら、羽衣ちゃんまで危ないかも』
不安気にうつむいた叶人くんを見て胸が詰まる。
いま思うと、家に遊びにいくことを彼が頑なに拒んでいたのは、そんな理由もあったからかもしれなかった。
『だけど、わたしの前ではあんなに優しかったのに……』
昨夜見た姿と普段の姿のコントラストが大きすぎて、どうしても乖離したまま信じきれない。
本当に同一人物なのか、いっそ夢だったのではないかと思えてくるほど。
あんなに怖かったのに。
叶人くんがゆるりと首を横に振り、思わずといった具合に強く手を握り返してきた。
『あんなのニセモノ。優しいふりをしてるだけ』
強張ったような声が少しずつ、寂しそうにほどけていく。



