消して、奪って、きみだけを


「えー、分かんない。考えすぎじゃない?」

 日和はむしろ涼を不審がるように眉をひそめている。

「そもそもおまえが言い出したんだろ、羽衣が好きで会いにきたとか」

「あれは冗談のつもりで……。あんただって“偶然だろ”ってあのとき言ってたじゃん」

「あのときはな」

 そのやり取りをわたしは知らないけれど、本気かどうかはともかく以前にも一度浮上した可能性みたいだった。

 日和は背もたれに寄りかかりながら「でも」と言う。

「もし本当に羽衣に会いにきたんだとして、何のために?」

 それもそうだ。
 飛躍しすぎだとか、そんなことが可能なのかとか、そんな反論をさておいても目的が分からない。

「そんなのひとつしかねぇよ」

 涼は即答した。
 つい日和と顔を見合わせる。

「見た目に騙されてるだけで、あいつ、思ったより執念深いやつだと思う。……いつも羽衣のことしか見てねぇし」

 執念深い、なんてとても叶人くんとは結びつかないようなものものしい言葉におののいてしまう。

 それでも、涼が何の根拠もなくこんなことを口にするとは思えなかった。
 いつも丁寧にひとに目と気を配っている彼にしか見えない何かがあるのかもしれない。

「執念って、まさか……」

 さすがに茶化す余裕をなくした日和が言いかけ、心臓をつままれたような気がした。

 わたしが7年もの間抱き続けていた重い罪悪感とそれが証明しているのは、彼に対する何らかの罪。

 普段は距離感やひとの感情に慎重な涼がここまで踏み込んでくるということは、全容を知らなくても、わたしの抱えていたものには尋常ならざる気配があったと感じていたのだろう。

 あの頃、わたしが叶人くんにしたことにより恨みを買っているのだとしたら。
 彼がわたしに会いたかった本当の理由は────。

「復讐」

 冴え渡るような声色で涼が言う。
 ぞくりと背筋が凍え、肌があわ立った。

 向けられた優しい微笑みや甘い言葉、触れた手から伝わってきた温もり。
 すべてにひびが入っていく。

 叶人くんは、わたしを許していなかったのだろうか……?