消して、奪って、きみだけを


『辛いよね、きみの立場……いまとなっては、友だちだから羽衣のそばにいられるわけだし。きみにはその関係を守り続けるしかない。残酷だよね』

 あのとき押し込まれた針は見えないくらいに埋まり、傷口がじくじく(ただ)れていた。
 血があふれて止まらない。

『でもね、これがあるべき形なんだよ。あの頃から決まってた。羽衣の隣にいるべきは僕だ。きみはただの“代わり”』

 だったら、俺は何のために羽衣を想っているんだろう。
 何のために羽衣を守りたいのだろう。

 “友だち”に甘んじてでもそばにいたいのなら、ふたりを素直に祝福するべきだ。

 何だかんだ理由をつけて若宮を疑ってきたのは、結局、嫉妬に過ぎないんだろうか。

 行き場のない気持ちのせいで認められないだけ?

 羽衣の気持ちを重んじるなら、俺の想いはどこに追いやればいいんだろう。
 羽衣にとっての俺は、いったい何だったんだろう。

 こんな痛みを抱えたまま、苦しいまま、それでも“友だち”という関係を守り続ける意味があるのか。
 ────もう、分からない。

 ぐい、と腕を引き寄せて抱き締める。
 こんなに小さかったか戸惑うくらい脆そうに思えて、一瞬(おく)した。

「涼……!」

 身じろぎしたところで、そんな抵抗は及ばない。

 唇に残ったままの先ほどの感触が、冷静さを奪って感情を波立てた。

 痛い。苦しい。痛い。
 たぶん、あいつも同じだった。

 羽衣の顎をすくって上向かせると、顔を近づける。

 ────じゃあ、ああすればおまえも受け入れてくれるってことかよ。

 ついさっき口にした自分の言葉が耳の奥で響いた。

 身勝手な若宮は奪うようにして羽衣を手に入れたのに、彼女の意思を尊重し続けた俺の手には何も残っていない。

 無理やり想いを示した立原の行動が“本気”と認められるなら、これまでの俺は何だったんだ。

 積み重ねてきたこの気持ちだって本物なのに。

 ずっと、こんなにそばにいたのに何も気づかないで、ふとしたときに傷だけを残していくおまえの方が、よっぽどひどい。