そう言い捨てて校舎内へ入ると、慌てて羽衣の姿を捜した。
誤解だけはしないで欲しい。
ふらつくように進む背中をすぐに見つけ、その一心で追いかける。
タイミング悪く、向かう先に若宮が見えた。
「羽衣!」
あいつが呼ぶより先に追いついて腕を引く。
仮にさっきのことまでもが若宮の策略なら、この機会を逃したら二度と近づけなくなる気がして焦った。
「さっきの……あれは、立原が勝手にやったことだから。勘違いしないでくれ」
そう伝えても、羽衣は動揺を隠しきれない様子だ。
困ったように視線をさまよわせている。
「で、でも……美怜ちゃんは本気ってことでしょ? どうしよう、わたし……すごく無神経だったよね。全然何も知らないで。その厚かましさが恥ずかしい」
「そうじゃねぇよ。俺は別にあいつが好きとかそんなんじゃねぇし」
立原への気持ちもなければ、応じる気もない。
冷たく聞こえるかもしれないが、そんな正直な本音を羽衣だけはちゃんと知っていて欲しかった。
「だけど、そんな……。美怜ちゃんはあそこまでしたんだよ。本気なのに」
「……何だよ、それ。ひどいって言いたいのか?」
うろたえたままの羽衣に静かに尋ねる。
「じゃあ、ああすればおまえも受け入れてくれるってことかよ」
焦燥に侵食されていく心は平静を失い、ぐらぐらと揺れていた。
華奢なその腕を掴む手に無意識のうちに力が込もる。
「どういう、こと?」
「俺が好きなのはおまえなんだよ」
口にした瞬間、その気持ちが重みを増した。
擦り切れるような痛みを伴ってのしかかってくるそれは、後悔に似ている。
こらえきれなくなって衝動的に伝えたことを悔いたわけじゃなかった。
俺が本気なのは確かだから。
「え……?」
羽衣は目を見張って、真意を測るように見つめてくる。
いつまで経っても撤回されることなく、真剣な眼差ししか返ってこないと分かると、ようやく「本当に?」と掠れた声でこぼした。
心がひりひりと焼け、その痛みにたまらず顔を歪める。
「……こんなことになるなら、最初からそうしておけばよかったのかもな」
悔やまれるのはそのことだ。
手段なんか選ばないで、遠慮なんかしないで、強引にでも────。
そうしていたら、羽衣の隣にいたのは俺だったかもしれないのに。



