「この前もバス降りたときに言ってたろ? あいつに“謝りたい”って。罪悪感があるって」
続けられた涼の言葉にはっとした。
(そうだ……。そうだった)
わたしはずっと叶人くんに伝えたいことがあったはずで、謝りたいと思っていたはずだった。
そのことを昼休みに思い出したんだ。
「そのこと、ちゃんと謝れたってことなのか? それで仲直りっつーか、元に戻った?」
「えっと……」
「悪ぃ、あんまり聞くべきじゃないかもしんねぇけど。俺からしても解せないっていうか、勝手に放っとけなくなってる」
涼はやっぱり誤魔化すことなく実直に、自身の心持ちを言葉にしてくれた。
そんなところにわたしも勝手に安心しながら、胸にわだかまる違和感を言葉にしようと口を開く。
「……それが、思い出せないの。叶人くんとふたりで帰った日、何を話したのかはっきり覚えてない」
「え?」
「涼とその話をしたときのことも……話したこと自体は覚えてるけど、わたしが何を謝りたかったのか、罪悪感が何なのか、いまは思い出せない」
奇妙で不思議な感覚だった。
どうしてそれほどまでに自分自身を追い詰めていたのか、何がそうさせたのか、まるで分からない。
「何、それ……。どういうこと?」
「分からないの。でも、確かに叶人くんと帰ったあの日……急にこうなったみたい」
心配と戸惑いをあらわにする日和にそう答える。
境目はやっぱりあのタイミングだと思う。
「忘れたってことか? 記憶喪失みたいな話?」
記憶喪失、なんて重い言葉を受けてぞくりとしてしまう。
だけど、それとはまた少しちがうように思う。
「ぜんぶがぜんぶ消えたわけじゃなくて……断片的に忘れてるんだと思う。どうして急に思い出せなくなったのかは分からないけど」
言うなれば、記憶の欠落だ。
きっと、抜け落ちたのは叶人くんとの思い出や過去。
休み時間、たどろうにも彼とのことを何も思い出せなかったことからして間違いない。
だから、それをもとに話していたときの記憶まで曖昧になってしまった。
叶人くんとの帰り道も恐らくその話をしていたし、涼に話した罪悪感というのも、彼との過去が原因にちがいない。
だから、話していたこと自体は覚えていても、内容や感情、理由が思い出せなくなってしまったのだろう。
記憶の中でその話をするわたしは別人のように感じられた。
意思が見えないから、現実感も追いつかない。



