消して、奪って、きみだけを


 囁かれた言葉にどきりと心臓が跳ねた。
 彼は相変わらず穏やかな笑みをたたえたまま離れるけれど、動揺が広がるにつれて頬まで熱くなってくる。

(な、なに?)

 誰にでも優しいけれど、わたしに対してはひときわ態度が甘い気がする。
 もしかしたらこれも勘違いなんだろうか。

 伝わるように、と言いつつ、答えにまではたどり着かせてくれない。
 それとも、たどり着けないわたしがやっぱり鈍感なのだろうか。

「おい、羽衣になに言ったんだよ」

「内緒」

 ね、と叶人くんはわたしに笑いかけてくる。
 鼓動が落ち着かなくて、心がくすぐったくて、何も言えなかった。



     ◇



 放課後、帰りのホームルームを終えると真っ先に日和が駆け寄ってきた。

「羽衣! こないだの情報の授業でやったパソコンのやつ、いま教えとこっか? 明日も授業あるよね」

 前回の授業がコンピューター室での作業で、先生があまりにも淡々と進んでいってしまい、操作に詰まったわたしは途中から置いてけぼりを食らっていた。

 情報の授業に限らず、たびたびこうしてついていけなくなるわたしを、いつも日和は気にかけてくれる。
 ノートを見せてくれたり、丁寧に教えてくれたり────だけど、今回は問題なかった。

「あ、大丈夫。叶人くんが教えてくれてもうばっちり」

「え、叶人くんが? 何で?」

「授業どこまで進んでるの、って話したとき、流れでついでに教えてくれたの。日和もありがとう」

「ふーん……。まあ、それならいいけど」

 そのとき、突然机の上に誰かの手が置かれた。
 横を見上げると、そこにいたのはいつにも増して仏頂面の涼だった。

「びっくりした。涼、どうしたの?」

「……いや、何か変だと思って」

 怪訝(けげん)そうに言いながら、近くの席から椅子を引っ張ってくる。
 まじまじとわたしの顔を見つめてきた。

「おまえさ、あいつのことどう思ってんの?」

「えっ?」

 図らずもどきりとしてしまうものの、彼が聞きたいのはそんな浮ついた次元の話ではなかったみたいだ。
 神妙な様子で続ける。

「いや、俺はさ……仲直りしたんだと思ったんだよ。小さい頃何かあったんだとしても、一緒に帰ったあの日、ちゃんと話して元通りになったんだなって。次の日からはおまえも変な顔しなくなったし、あいつとも変な感じじゃなくなってたから」

「あー、あたしもそれは分かるな。叶人くんのこと避けたがってたっていうか、見るからに変だった」

 日和も納得した様子で腕を組んで頷く。

 何かあったのかと聞かれたことを思い出した。
 ふたりには心配をかけてしまっていたみたいで申し訳なくなる。