消して、奪って、きみだけを


 わたしの幼なじみ。
 小学生の頃に出会って、いつからかずっと一緒だったのに、彼の転校をきっかけに離れ離れになった。

 ずっと言えなかったけれど、彼は初恋の人でもあった。
 それくらい特別で大切な相手。

 ────なのに、どうしてかふたりでの思い出が淡い。
 確かに叶人くんのことは知っているし覚えているのに、記憶だけが曖昧だ。

 ふいにそのことに気がついて困惑した。
 これはどういうことなんだろう?

 確かに7年も前の出来事だけれど、それにしたって簡単に忘れられるような関係ではなかったはず。

(何か。いったい何があったんだっけ……?)



 喧騒に包まれた昼休みの廊下を、4人で購買を目指して歩いていく。
 日和が「えっ」と声を上げた。

「うそ! 叶人くんの前の学校、購買なかったの?」

「うん、なかったよ。代わりにコンビニがあったから、それが普通だと思ってたんだけど」

「えー、コンビニ!? いいなぁ、そっちの方が羨ましい」

 前を歩くふたりの背中を眺めて、何となくほっとしている自分がいた。

 休み時間に目にした寂しげな気配は感じられない。
 日和とも、きっと涼とも、このまま打ち解けられるはず。

「……よかった」

 そうこぼしたのはわたしではなく、隣を歩く涼だった。
 頷きながら表情を緩める。

「うん、本当によかった。叶人くんもふたりと仲良くなれそうで」

「じゃなくて、おまえのこと」

 予想外の言葉に「えっ?」と目を見張る。

「わたし?」

「ずっと様子変だったから。あいつが転校してきてから……。話してても全然あいつの方見ないし、おまえはおまえで変な顔してたし」

 ふと鼻先を雨のにおいが掠めた。
 今日は晴れているし、そんな予報でもないのに。

「“気になってた”って言う割に、再会してもうれしくなさそうだった」

「わたしが……?」

 どこか他人事みたいに聞こえたけれど、そのうち自然と頭の中に蘇ってくるものがあった。
 曖昧だった輪郭が鮮明になっていく。

『わたしこそごめん、ちゃんと話せなくて……。涼の言う通り、叶人くんは小学校のときの幼なじみなの。3年生のときに、その……叶人くんが転校していっちゃって』

 確かにそんな話を、涼と日和としていた。
 完全に忘れていたというより、うっかり失念していたような感覚だ。

『それ以来なんだ?』

『そう。……どうしてるのか、ずっと気になってた』

 思い出した。
 わたしはずっと、叶人くんに伝えたいことがあったんだ。