消して、奪って、きみだけを


 確かめるように尋ねる彼に、戸惑いを隠せないままそっと頷く。

「そうみたい。変だよね、ごめん。何か大事なこと話してくれてた……?」

「ううん、大したことじゃないよ」

 窺うように聞くものの、叶人くんは首を横に振って微笑んだ。
 色々と困惑が拭えないとはいえ、少なくとも気を悪くしていないみたいでほっとする。

 でも、とふいに彼の綺麗な顔から笑みが消えた。

「……そういうこと」

 ひとり納得した様子で小さく呟く。

 いったい何がどういうことなのかは分からないけれど、何となく聞くこともできないまま、本鈴が鳴ってタイミングごとすり抜けていってしまった。



     ◇



 休み時間、これまで涼と日和と3人で過ごしていた輪に自然と叶人くんも加わるようになった。

 男女問わず彼を取り巻く人はたくさんいるのだけれど、その誰にも取り合うことなくこちらを優先している。

 決して冷たいなんてことはなく、分け隔てなく人あたりはいい。
 だけど、誰に対しても穏やかな微笑みを向けながら、やんわりと距離を取っているように見えた。

「あ……」

 ふとスマホを見ると、バッテリー残量が20パーセントを切っている。
 昨日、寝る前に充電するのをすっかり忘れていた。

 鞄を探ってモバイルバッテリーを取り出すものの、スマホに挿してみても反応しない。
 どうやらこちらも充電切れのようだった。

「どうかしたの? 羽衣」

 ふと、叶人くんがわたしに目をやる。
 話していた涼と日和もこちらに向き直った。

「あ、ううん。ちょっと充電なくて」

「モバ充も? じゃあ、あたしの────」

 日和が席を立つより早く叶人くんが動いた。
 自身の鞄からモバイルバッテリーを持って戻ってくると「はい」と差し出してくれる。

「これ使って」

「あ、ありがとう。助かる」

 受け取りつつそう言いながらコードを挿し込んだ。
 無事に充電開始されてほっとする。

「あーあ、仕事奪われちまったな。日和」

 ふと茶化すように涼が言うと、彼女はむっと微妙な表情をたたえた。

「仕事って何よ」

「羽衣の世話焼き」

「それはあんたもでしょうが!」

 いつもみたいに小突いて言い返す日和だけれど、涼もまた「おまえには負ける」と同じ調子で対抗している。

 そんなふたりを見て思わず笑ってしまうと、叶人くんもくすりと楽しそうに声を上げた。

「本当に仲いいね、みんな」

 ただ思ったことを口にしただけかもしれないけれど、どことなく寂しげな響きに感じられてはっとする。
 見上げた横顔に胸が締めつけられた。

 何か言おうと思ったのに、言葉が出てこない。
 見つからなかったというよりも、妙な違和感が引っかかったせいだ。

(あれ? 叶人くんって……)