消して、奪って、きみだけを


「むしろ不気味だろ、そんなの。偶然だって」

「ま、そうだよね。でも偶然なら偶然で、ますます運命の再会って感じじゃん!」

「あー、もう……。おまえ、マジでどっちの味方だよ」

 投げやりに言いながら、再びため息をついた涼は窓の外に目をやる。

 朝から降り出した雨は、放課後まで止むことなく降り続いていた。

 木々や地面の色がいつもより濃い。
 ガラスに散った雫が隙間を埋めて、景色を滲ませた。

 羽衣は今日もあの夢を見てうなされるのかもしれない。

 苺味のワッフルを買いにいこうと思った。
 羽衣が変な顔をしていたら、黙って差し出せるように。



     ◇



「懐かしいな。久しぶりに来たけど、この辺はほとんど変わってなさそうだね」

 バスを降りてから、叶人くんはしみじみとそう言う。

 小さい頃、ふたりで歩いたこともある慣れた通りだけれど、わたしには思い出を懐古(かいこ)する余裕なんてなかった。

 ふたりで学校を出てから、歩いている間もバスに乗っている間も、彼はこうして何度も話しかけてくれた。
 だけど、わたしはひとこともまともに言葉を発せないでいる。

 優しい声を聞いても、穏やかな眼差しを向けられても、じわじわと生殺しにされているような心地がする。

 いまにも逃げ出したい気持ちで、うつむいたまま彼の後ろを歩いていた。

「まだ信じられないな。また羽衣とこうして一緒に過ごせるなんて」

 ふと足を止めた彼が振り向く。
 そのままそっと伸ばされた手が、わたしの頬に届いた。

 触れた瞬間、びくりと身体が跳ねて強張ってしまう。
 その穏やかな温もりにさえ、刃のような鋭さを感じた。

「……よかった、幻じゃなくて。これがもし夢だったらって実は怖かったんだけど」

 安堵を滲ませて笑い、彼は肩をすくめる。
 思わず顔を上げると目が合った。

 教室でも確かに視界におさめてはいたはずなのに、何だか初めてまともに彼の目を見たような気がした。
 いたたまれないのに逸らせない。

「やっと僕を見てくれた」

「……っ」

 ふっと彼がうれしそうに表情を綻ばせたとき、わたしの心は粉々に砕け散った。
 彼の手が離れたのを合図に金縛りが解ける。

「ごめんなさい……!」

 泣きそうになりながら頭を下げた。
 きつく握り締めた自分の両手が震えていることに遅れて気づく。

「え?」

「ごめんなさい。あのとき、わたし……。わたしのせいで────」

「ちょっと待って。どうしたの?」

 戸惑ったような叶人くんの声が降ってきて、恐る恐る顔をもたげる。
 浅い呼吸の中で必死に言葉を探すけれど、どうしてもこれ以外に見つからない。

「ごめん……。ごめんなさい」