『俺は苗字で呼ぶし、仲良くなれるかはまだ分かんねぇってことでいいか?』
器用な愛想笑いもできず、心のままに口にした。
けれど、叶人は特に気を悪くした様子もなく笑う。
『お手柔らかに』
そんなやり取りを耳に、日和は呆れた様子で涼を小突いた。
『まったく……。そんなんじゃちっちゃい男だって羽衣に嫌われちゃうよ?』
『だから────』
余計なことを言うな、と怒りつつ、つい羽衣の様子を窺ってしまう。
変に誤解されたらどうしてくれるのだ。いや、誤解ではないのだけれど。
だけど、羽衣は終始口をつぐんだままだった。
いままでの会話も聞いていたのかいないのか、心ここにあらずといった様子で目を落としている。
『羽衣……?』
強張った表情も、きつく握り締めた両手も気にかかった。
思えばここのところ、普段と様子がちがっていたように思う。
特に、帰り道、叶人と偶然出会ったあの日から、時折妙に思い詰めた顔を見せていたかもしれない。
結局、そのあとチャイムが鳴って強制的に打ち切られてしまった。
何も聞き出せないまま放課後を迎え、ふたりを見送るほかなかったのだけれど、羽衣は大丈夫だろうか。
「……あ、ごめんって。冗談だよ、嘘でもないけど」
涼が黙り込んだのを見て、日和はとりなすように言った。
遠慮のないもの言いに息をつきながらも頷く。
「分かるよ。分かるけど、正直ちょっと何か変だ」
「変って?」
「羽衣の様子だよ。……あいつはやっぱり、羽衣に変な顔させる」
本音を言えば、それだけではない。
笑顔も振る舞いも完璧に見えたけれど、引っかかっている部分があった。
『お手柔らかに』
少なくともそのとき、笑っているのに冷たさのようなものを感じた。
目が笑っていなかったと思う。
もっと言えば、笑顔の奥に凄むほどの迫力が潜んでいた────親しみの欠片もない。
「またそれ? 意味分かんない。あ、妬いてるんでしょ? 今日は羽衣取られちゃったし」
「ちげぇよ、そんなんじゃないって」
「でもさ、もし本当だったらどうする? 叶人くんが本当に羽衣のこと好きで、それで7年越しに会いにきたとか」
日和はうっとりと頬に手を添えるも、涼はたまらず眉をひそめた。
そんな運命的でロマンチックな美しい話と捉えていいものか、この気持ちをさしおいても共感できない。



