虐げられた呼人の姫は幸せの王子の至上の愛に溺れる

……。はっ。

私は目を覚ました。薄暗い光が差し込む窓を眺めながら、重い身体を起こす。


時計を見やる。4時、か……。寝坊しちゃったな。家事とか、色々しなくちゃいけないのに……っ。


抜き足・差し足・忍び足。私はできるだけ足音を立てずに足を運んだ。

我が家の家族は全員朝が早い。だから毎日、大体家族の誰か最低一人は、リビングにすでに降りているのだ。


「あははっ」

扉を開けようとすると、楽しそうな声が聞こえてきた。一花様だ。

何のチャンネルを見ているのだろうか……。


そっと扉を開けて、私は一花様にたずねた。

「あのっ、一花様……。どうされ、ましたか」

あ、今気付いたけれどっ、一花様の楽しいテレビタイムをお邪魔してしまったなっ……。私は顔を青白くさせる。


「あのねぇ、身分をわきまえてくれる?」

気付くと、一花様はリモコンでチャンネルを一時停止させていた。

鬼のような形相でこちらをぎろりと睨んでおり、ますます私は顔がこわばる。

「も、申し訳ございませんっ。あの、えと。何のチャンネルを見ていらしたのですか」

一花様はまた楽しそうに笑い、


「聞きたいかしら?ま、どっかの誰かさんが聞いたら、絶望するでしょうけれど」


と言った。

多分、ううん、確実に、どっかの誰かさんというのは私だ。

私が、絶望する内容……?一花様はニュースを見ていたのかな。


「あのね、あんたみたいな下流階級は、義務教育を受けられないんだって。信じられないんなら、聞かせてあげようか?」


一花様はリモコンを手に取り、妖艶に微笑んだ。

『下流階級の呼人は、義務教育を受けられません。以上、教育担当省からのお知らせでした』


ほ、本当だ……。

勉強は、好きだし、もっと、続けていたかった。

でも、もう決まっちゃった事柄だもんね、諦めるしかないよ。



「あ、朝食作ってよ。あたしの制服のアイロンがけもしな」

「かしこまりました」


そして、ふらついた足取りで厨房に向かった。


その後、どういう風に行動したかは全く覚えていない。




そして、夕方になった。


……私って、いつもこうだ。

いつもいつも、毎日をぼんやりと過ごしてる。

特に楽しいことはない。

まあ、楽しいことといえば……、何も怒鳴られたりしなかった日があったこと、くらいかな。


お母様はお手伝いさん達とショッピングに出かけているし、私は一人だ。


な、何しようぅぅぅ。

多分、教育をつかさどる機関の人達が、

『下級はジャマだから、教育も受けさせないようにし、さらに落ちこぼれにして世間についていけなくなるようにしよう』

と誘導して行ったんだろうな……。



全く、やることが思いつかない。

うーん。


……あ!

私に頭に電球マークが浮かぶ。


お手伝いさん達にも疎まれている私だけれど、唯一私に心を許してくれる子がいる。

名前は、和華。


私はお手伝いさん達が住まう棟「ユニゾン」に向かう。

やっぱり、その棟で生活しているお手伝いさん達が、

「あら、来たわよ。出来損ないが」

「私達のお手伝いするお方は一花様お一人だけでじゅうぶんよね」

「一花様は、ミルクティー色のカールした髪に濃い桃色の瞳。対して出来損ないは、ボサボサに乱れた陰気な黒髪につまらない黒い瞳よ。……伝説で、下流階級の呼人で、『呼人姫』と呼ばれるお方が1000年に一度誕生するそうよ。まあ、あの出来損ないが姫な訳ないでしょうけれど」

視線が痛いけれど、それでも進む。

それくらい、和華は私の大切な人だから。痛くても、進むしかない。


『ピンポーン』

「し、雫ですっ」

ノックすると、中から、「はーい、どうぞ」という快活な声が聞こえてきた。

良かった……!最近、病を患ってたみたいで、心配だったけれど、大丈夫みたいっ。


「雫ちゃん!会いたかったよぉ」

抱きついてくれる和華の前で、私は苦笑いした。

「ふふっ、ありがとう。今日は、一花様は学校が終わった後、お母様と一緒にお出かけに行くみたい。お母様は今パーティーにに行ってるわ」

私の言葉を聞き、和華は口を尖らせた。何やら不満な様子だ。


「もー!」

いきなり大声を発した和華。

「ひっ、どうしたの、和華?」

「あ、怖がらせてごめんね。だってさ、一花様もお母様も、わがまますぎるわよ!雫ちゃんがいくら可愛いからって、嫉妬して虐めるのも極悪非道すぎる!」


今、なんて言ってた?か、わ、い、い?


か、可愛いって……。

お世辞で言ってくれたのは分かるけれど、こんな不細工で地味〜な私に貴重なお言葉をかけてくださるだなんて、嬉しい限りっ……!


「ありがとう。でも、お父様は何もしてこないわ」

「でもでもっ!それもひどいわ!注意しないなんて!」


「ちょっと、聞こえるわよ……」と私は和華を宥め、目をちょっと伏せた。


「じゃ、あね」

私は視線を受け流しながら、自分の部屋に戻った。