虐げられた呼人の姫は幸せの王子の至上の愛に溺れる

……。うっ。

涙が、出てきてしまった。

本当に、弱虫だ、私。


過去は変えられないことなんて分かっているはずなのに、涙腺が思わず緩んじゃう。


だからって、未来、変えられるはずも無いと思う。

役に立たない、「雫」を呼び寄せる能力なんてっ。誰も幸せにできない。



お姉ちゃんは悲しむと思うけれど……。



私だって、我慢の限界なんだよ。


ずっとずっと、頑張ってきたんだよ。




だから、もう、消えてしまいたい——。



そう思って、橋から、お姉ちゃんが昔立っていた所から、飛び降りようとした


その時。


「お前なにしてんだよ」


私は恐る恐る振り向いた。

男の人だ。

私が、命を無駄にしようとしたからもしかして怒ってるんじゃっ……!


「え、あ、え。この橋ぃの下の生きっ物達をぉ観察してい、た、だけっで。ゴシンパイナク」

どうにか誤魔化してみせた私を、男の人は興味なさげに呟く。「……ご心配いらないわけないだろ」


「ふぇっ?!なんでぇ知ってたんでっすか」


びっくりしすぎて声が高くなりすぎた。


「お前が泣いてるからだろ。そんなん誰でも分かる」

きゅ、急にこの人、モジモジし始めたっ。

不審すぎる要素しかない。


「な、泣いてますけどっ。そんなの貴方には関係ないじゃないですか!」

橋から飛び降りるのはまた今度にしなきゃ。


「なんつった」

「え、なにも、特に?」


男の人は怪訝そうに眉を寄せ、


「口に出てたんだよ。『飛び降りるのはまた今度にしなきゃ』って。なーにーかーら?」

と言った。

うう、実際に口からこぼれ出てたんだ……っ!

しかも、絶対この人、私がなにから飛び降りたかったか、お分かりになっている様子だ。


「橋、だろ」

その言葉が私の心臓を鋭く撃ち抜く。

「そ、その通り、ですが」


私はとうとう降参した。この人には敵わないな。


「貴方のお名前は何ですか」

「西園寺 幸」

さらりと告げた西園寺さん。

さ、西園寺って、気品があってゴージャスな苗字っ……!

私の、「小鳥遊」って苗字も確かに素晴らしいけど、桁違いだ。


「お前の名前は」

「小鳥遊 雫です」

私の名前なんて、聞かなくても聞いても、西園寺さんの家や人生には関係ないと思うし、ううん、聞かないでほしいっ。


……というか、こんなに良い家柄なのに、なんで一人で出歩いたりしてるの?

厳重な見張り番の目を盗み、脱走して何となく散歩してきた……、とか?

いやいや、それはないよねっ。

わざわざこんな田舎っぽいところまで来る必要はないし。

不思議になってきました。


「ええと、何でこんなところにいるんですか?」

「何となく」

え。あ、当たってたんだ。

何となく、って、もう少し大変な理由があったのかと思った……っ!


ふふっ。


「……!」

「……?」

気まずいような空気が流れる。


しかも。西園寺さん、私のこと見てちょっぴり笑ってるぅ!


笑う要素、あったかな?


「あのぉ。笑うところ、ありました?」

「っ別に笑ってないけど」

さらに西園寺さんは目を逸らす。

ますます怪しげだよ、これ。


私、大変な出会いをしてしまったみたいです!