騎士団長は天才魔石職人を手放さない

 その後の身支度もイヴはおざなりだ。

 結局見かねたアルバートが髪を梳いてやると、イヴは工具から目を離さずに


「そこまでしなくていい」


 と低くうなった。しかしアルバートの手を払うことも、椅子から立ち上がることもしない。

 ふと、イヴが作りかけの弓から手を離して、アルバートの手を取った。


「イヴ?」


 イヴは答えずにアルバートの手を握ったりさすったりしていた。


「……いや。無骨な手のわりに、繊細に動くものだと思っただけだ」

「それは」

「気にするな。髪をくくるなら邪魔にならない位置にしてくれ」


 イヴはすでに作業に戻っていて、アルバートは何も聞けなかった。ただ、世話を許されたらしいことだけ理解できた。




 イヴは夜になっても、自分から寝室に行くことはほとんどなかった。

 アルバートが寝ようとするときには、いつも作業をしているか、机で寝ているかのどちらかだった。しかし、夜にイヴが机で寝ていたためアルバートが抱き上げようとすると、目を覚まして怒られた。


「仮眠していただけだ。まだやることが残っているんだ。寝ている場合ではない」


 そのため、夜に机で寝ているときは、アルバートは毛布を取ってきてその骨ばった肩にかけるようになった。

 ついでに髪を梳き、薄汚れた顔を拭いてやっていると、同じように休む支度をしていたドミニクが顔を出して噴き出した。


「団長さん、やりすぎると恋人ではなく母親みたいになりますよ」

「恋人!?」

「失礼しました。今は護衛でしたね」

「今も何もない!」


 アルバートが慌てて言い返すと、イヴがのそのそと頭を上げた。


「人が寝てるときにうるさいぞ」

「す、すまない」

「おやすみなさい、先生」


 ドミニクはさっさと自室へ切り上げていった。

 アルバートも咳ばらいをして自室に戻る。ベッドに横になり、自分は彼に怒られてばかりだと、アルバートはつい自嘲の笑みをこぼしたが、それでも世話を焼くのをやめられなかった。

***