アルバートが工房に住み込むようになって一週間が経ち、その間ずっと甲斐甲斐しくイヴの世話を焼いていた。
なにしろイヴは放っておくと寝ることすら忘れるくらい、研究と作業に没頭してしまうのだ。
アルバートは朝起きると、まずイヴがどこで寝ているのかを確認するようになった。そのまま机で作業を続けていることも少なくないし、そのまま力尽きて机に突っ伏して寝ていることもある。
起きていればベッドに強制的に連れて行き、机や床、倉庫などで寝ていればベッドまで抱えて運んだ。
「……本当に内臓は詰まっているのだろうか?」
初めてイヴを抱きかかえてベッドまで運んだとき、アルバートは思わずつぶやいた。
アルバートは改めてその顔をまじまじと見つめた。青白い顔色、かさついた唇、クマで黒くなった目の下。抱きかかえた身体は軽く、工業油と汗の匂いがした。
アルバートはそっとイヴをベッドに寝かせて布団をかけ、寝室から出る。
それと同時にドミニクが彼の部屋から出てきて、不思議そうに室内を見回した。
「先生はどちらに?」
「作業机で寝ていたから、寝室に運ばせていただいた」
アルバートが答えるとドミニクはほっとした顔になった。
「ありがとうございます。オレでは先生を運ぶことができませんから。では今の内に掃除をしてしまいます。団長さんは食事の支度をお願いします」
「ああ」
身支度を始めるドミニクとともに、アルバートも顔を洗いに向かった。
手にまだぬくもりが残っているような気がして、つい手をそっと握りこんだ。
その後、アルバートがドミニクとともに食事を終え、掃除や洗濯を分担して進めていると、イヴが起きてきた。
髪はやはりぼさぼさで、眼鏡を手にぶら下げている。寝起きだからか、普段から機嫌の悪そうな目つきが、さらに剣呑に細められていた。
「ドミニク、飯」
イヴはあくびをしながら、かすれた声をドミニクに向けた。
「先生の机の上にありますよ」
「……本当だ。で、この熊は?」
指さされたアルバートは絶句しかけたが、ドミニクは何でもないことのように答えた。
「数日前から先生の護衛として住まわれている王国騎士団の団長さんです。先生の今朝のお食事は団長さんが用意してくださいました」
「ああ、そうだったな」
「おはようございます、イヴ殿」
「おはよ。殿とかいらんから。呼び捨てでいい。あと、僕の食事に肉を入れるな」
「ハム一切れじゃないか」
思わず目を丸くしたアルバートにイヴは肩をすくめた。
「肉を食べると腹が重くなる。腹が重いと頭が働かなくなるから嫌なんだ」
騎士団では考えられない発言に、アルバートは言葉を失いかけた。しかし同時にだからこんなにも軽いのかと納得した。
「イヴ、それならハムはよく噛んで食べてくれ。咀嚼をめんどくさがって丸のみするから腹が重くなるんだ」
「お前は僕の母親か」
アルバートは、明日からはハムをもっと薄く切って何枚かに分けて出そうと思いながら、背中を丸めて朝食を食べるイヴの薄い背中を見つめた。
なにしろイヴは放っておくと寝ることすら忘れるくらい、研究と作業に没頭してしまうのだ。
アルバートは朝起きると、まずイヴがどこで寝ているのかを確認するようになった。そのまま机で作業を続けていることも少なくないし、そのまま力尽きて机に突っ伏して寝ていることもある。
起きていればベッドに強制的に連れて行き、机や床、倉庫などで寝ていればベッドまで抱えて運んだ。
「……本当に内臓は詰まっているのだろうか?」
初めてイヴを抱きかかえてベッドまで運んだとき、アルバートは思わずつぶやいた。
アルバートは改めてその顔をまじまじと見つめた。青白い顔色、かさついた唇、クマで黒くなった目の下。抱きかかえた身体は軽く、工業油と汗の匂いがした。
アルバートはそっとイヴをベッドに寝かせて布団をかけ、寝室から出る。
それと同時にドミニクが彼の部屋から出てきて、不思議そうに室内を見回した。
「先生はどちらに?」
「作業机で寝ていたから、寝室に運ばせていただいた」
アルバートが答えるとドミニクはほっとした顔になった。
「ありがとうございます。オレでは先生を運ぶことができませんから。では今の内に掃除をしてしまいます。団長さんは食事の支度をお願いします」
「ああ」
身支度を始めるドミニクとともに、アルバートも顔を洗いに向かった。
手にまだぬくもりが残っているような気がして、つい手をそっと握りこんだ。
その後、アルバートがドミニクとともに食事を終え、掃除や洗濯を分担して進めていると、イヴが起きてきた。
髪はやはりぼさぼさで、眼鏡を手にぶら下げている。寝起きだからか、普段から機嫌の悪そうな目つきが、さらに剣呑に細められていた。
「ドミニク、飯」
イヴはあくびをしながら、かすれた声をドミニクに向けた。
「先生の机の上にありますよ」
「……本当だ。で、この熊は?」
指さされたアルバートは絶句しかけたが、ドミニクは何でもないことのように答えた。
「数日前から先生の護衛として住まわれている王国騎士団の団長さんです。先生の今朝のお食事は団長さんが用意してくださいました」
「ああ、そうだったな」
「おはようございます、イヴ殿」
「おはよ。殿とかいらんから。呼び捨てでいい。あと、僕の食事に肉を入れるな」
「ハム一切れじゃないか」
思わず目を丸くしたアルバートにイヴは肩をすくめた。
「肉を食べると腹が重くなる。腹が重いと頭が働かなくなるから嫌なんだ」
騎士団では考えられない発言に、アルバートは言葉を失いかけた。しかし同時にだからこんなにも軽いのかと納得した。
「イヴ、それならハムはよく噛んで食べてくれ。咀嚼をめんどくさがって丸のみするから腹が重くなるんだ」
「お前は僕の母親か」
アルバートは、明日からはハムをもっと薄く切って何枚かに分けて出そうと思いながら、背中を丸めて朝食を食べるイヴの薄い背中を見つめた。



