騎士団長は天才魔石職人を手放さない

「イヴ、無事でよかった……」


 倉庫街から港町に設置された騎士団の詰め所へと移動し、アルバートは震える手でイヴを縛っていた縄をほどいた。


「あ、ああ……驚いたな」

「なにがだ?」


 アルバートはイヴの腕や手に怪我がないか確認した。いくつか掴まれたところや縛られていた箇所がうっ血しているが、軽症ばかりだった。

 室内にはアルバートとイヴ以外は誰もいなかった。

 騎士団の兵たちは隣国の兵士の捕縛や、他の隣国所有の倉庫の検め、王都への報告で出払っていた。

 足を撃たれた兵も今は手当てを受けて別の部屋で休んでいた。


「いや、こんなにすぐ助けにくるとは思わなかったから」

「来るさ、そりゃ」

「なぜ?」


 イヴが困った顔でアルバートを見上げた。

 アルバートは苦笑して、ドミニクから預かった軽食をイヴに差し出した。

 イヴは目を細めて、それを両手で受け取る。食べ終えるのを待って、アルバートは櫛を持って戻ってきた。


「失礼」


 イヴのぼさぼさの髪に、アルバートは櫛を通した。


「痛い」

「ちゃんと風呂に入れ。髪くらい自分で梳け。いや、その前に伸ばしすぎだ。帰ったら切ってやる」

「お前が?」

「ああ」

「なぜ?」

「最近知ったんだが、俺は好いた相手の世話をするのが好きらしいんだ」


 アルバートの言葉に、イヴがくすくすと笑った。


「なんだ、団長殿は自分で気づいていなかったのか。あんなに甲斐甲斐しく僕の世話をしておいて」

「イヴ」

「うん」

「俺の名前はアルバートという」

「そうらしいな。なあアルバート。僕に言うことがあるんじゃないのか?」


 イヴがにやりと笑って振り向く。

 窓から入ってきた潮風が、梳かれたばかりの彼の髪を柔らかく揺らした。

 アルバートはイヴの前に回り込んで膝をついた。


「イヴ。お慕いしている。どうかこの俺を、あなたの恋人にしてほしい」

「謹んでお受けしよう、アルバート」


 イヴが差し出した手を、アルバートが取り、口づけた。

 それを見てイヴは目を細めた。そして空いた手で自身の唇を指した。


「ああ、こっちにしてくれてもいいぞ? 昨晩の続きだ」

「んなっ!?」


 真っ赤な顔のアルバートに、イヴはにやりと笑って身を乗り出した。


「それとも、未経験の団長殿には荷が重いのか?」

「……そ、そっちはどうなんだ」


 アルバートはイヴの手を握りしめたまま言った。

 イヴはいたずらっぽく笑ったまま、椅子から降りて腰を落とした。

 そのまま顔を寄せ、一瞬触れてすぐに離れる。


「さあ、どうだろうな」


 アルバートは耳まで赤くしたまま、イヴを抱き寄せた。


「あなたが無事で本当によかった……っ」

「泣くなよ、団長殿」

「本当に心配したんだ」


 アルバートの泣き言に、イヴが笑った。


「僕はそうでもなかった」

「……なぜ?」

「アルバートが来てくれると思っていたから」


 その静かな声に、アルバートは肩を震わせ続けた。

***