🐶1 あさ
朝7時すぎ。
まだ街が完全には起ききってない時間。
カフェの窓から入る朝日が、
テーブルに柔らかく落ちてる。
あなたは奥の席で、 湯気の立つラテを片手に、
ノートを開いていた。
最近始めた朝活。
好きな映画の気になるメモを書いたり、
今日やること整理したり、 ぼーっとしたり。
夜より静かなこの時間が、 思った以上に気に入ってる。
店内には、 キーボードを打つ音と、
エスプレッソマシンの音だけ。
その時。
「…先輩、おはようございます」
聞き覚えある声。
向かい側のレジの方へ顔を上げると、 レジ前で彼がぺこっと頭を下げた。
職場の後輩。
いつもは仕事終わりで会うことが多いから、
朝の私服姿がなんだか新鮮。
彼、 トレー持ったまま近づいてくる。
「え、先輩…… 朝いるタイプだったんですか。」
「失礼だなあ。」
「いや、 完全に夜型かと思ってました。」
「確かに夜の方が楽…最近は朝活してるの。」
「朝活。」
彼、 ちょっと笑う。
「なんか意識高い。」
「言い方。」
でも、 嫌な感じじゃない。
彼は少し迷ってから、 あなたの向かいを見る。
「……ここ、 座っていいですか?」
「…え。あ、うん。」一瞬の間、
彼、 わざとらしく肩を落とす。
「邪魔されたくない派なんですね。了解しました、失礼します、あーーー寂し、ショック」
「まって待って…!」
思わず呼び止める。
彼、 ぴたり止まって、 ゆっくり振り返る。
口元、 ちょっと笑ってる。
「間がありすぎましたよ。 悩んだじゃないですか」
「そうだけど、 うん、そうなんだけど。」
「ほらぁ。」
「でももう話しかけられたから、 関係ない感じだし」
彼、 数秒じっとあなたを見る。
それから、 ふっと目を細めた。
「…次から気をつけます」
「だと有難いな。 笑。今日はこのまま話そう、ね。」
「仕方ないなぁ」
「いや待って、 なんで私がお願いしてるみたいな…」
彼、 堪えきれないみたいに笑う。
朝の静かな店内に、 小さい笑い声だけ響く。
それから、 ゆるい会話。
仕事の話だったり、 最近観た映画だったり。
「先輩、 朝なに時起きなんです?」
「今日は6時半。」
「え、偉。」
「でも起きるまでが地獄。」
「想像できる。」
「どういう意味?」
「よく寝足りないって言ってるし」
「言ってる。」
「やっぱり。」
彼、 ラテ飲みながら笑う。
その笑い方が、 仕事中よりずっと柔らかい。
あなたもつられて笑う。
こういう空気、 なんかいいなと思う。
頑張って盛り上げなくても、 沈黙が気まずくない。
ふと。
彼が窓の外見ながら言う。
「朝のカフェって、 ひとり時間の人多いですよね。」
「うん。 だから好き。」
「先輩、 めちゃくちゃ“自分の世界”入りますもんね。」
「入る。」
「俺さっき、 店入って3回くらい絶対視界入ったのに気づかれてなかったです。」
「えっ。」
「ぼーっと考え事してました。」
「嘘。」
「ほんと。」
ちょっと恥ずかしい。
あなた、 ラテ飲んで誤魔化す。
彼、 そんな様子見ながら、 ぽつり。
「でも。」
「ん?」
「その感じ、 なんか好きです。」
「……。」
「ちゃんと、 ひとりの時間楽しんでる人って感じで。」
さらっと言うから、 余計困る。
恋愛っぽく聞こえそうで、 でもギリギリ違う。
その曖昧さがずるい。
あなた、 視線逸らしながら小さく言う。
「……朝から距離近くない?」
「朝だからですよ。」
「意味わかんない。」
「仕事中じゃないからかな?特に空気感がゆるいんですよね、」
「誰の。」
「先輩の。」
「……。」
彼、 いたずら成功したみたいに笑う。
そのあと、 時計をちらっと見て、 少し残念そうに言う。
「そろそろ行かないと。」
「あ、もう一個の仕事?」
「はい。 先輩は?」
「私は休み。」
「いいなぁ。」
立ち上がって、 トレーを持つ彼。
でも、 すぐには行かない。
「……また朝活します?」
「たぶん。」
「じゃあ、 また来ます。偶然隣の席座っておきますね」
「あれ??こいつ、学んでないな?」
彼、 すくすく笑う。
「あれー?じゃ、また」
ご機嫌そうに仕事に向かう彼。
それから少しして。
あなたは朝のカフェの場所を変え始めた。
最初は、 「今日は別の店行ってみようかな」くらいの軽い気持ち。
でも、
気づけば自然と、
あの店へ行く回数が減っていた。
理由は単純。
集中できないから。
朝の静かな時間を楽しみにしてるのに、 扉が開くたび、 「来たかな」って思って見てしまう。
それがもう、 負けな気がして。
だから最近は、 駅の反対側にある小さなカフェに行ってる。
そこは静かで、 人も少なくて、 すごく居心地がいい。
そして、
たまに 少しだけ、物足りない。
そんなある日。
職場の休憩室。
あなたが缶コーヒーを開けていると、 後ろから声。
「先輩。」
「!」
振り返る。
彼。
いつも通りの、 柔らかい笑顔。
でも今日は、 少しだけ探るみたいな目をしてる。
「朝活の頻度下げました?」
あなた、 一瞬固まる。
「……あ、 うー……うん。」
誤魔化すように視線逸らす。
「やっぱり眠たくて……」
「ふーん。」
彼、 じっと見る。
「……。」
「……なに。」
「いや。」
でも、 絶対納得してない顔。
あなた、 居心地悪くなって缶を持ち直す。
彼、 少し黙ってから、 ぽつり。
「最近、 会えないなって思ってました。」
「……。」
その言い方が、 思ったより静かで。
軽く言われた方が楽なのに、 変に本気っぽく聞こえて困る。
あなた、 誤魔化すみたいに笑う。
「…ごめんね、寂しかった?笑」
「はい」
即答。
「いや、返答早」
彼、 壁に軽く寄りかかりながら続ける。
「明日は?」
来るの?みたいな言い方。
少し拗ねたみたいな声。
あなた、 胸の奥が変にざわつく。
彼はたぶん、私ともっと話したいだけだと思う、
1番職場で私が話しやすいから。
寂しかったのは本当なんだろうなって分かる。
沈黙。
休憩室の冷蔵庫の音だけ響く。
それから彼、 少し笑った。
「……俺、 やりすぎました?」
「え?」
「距離感。」
「……。」
図星。
あなた、 視線逸らす。
彼、 その反応見て、 小さく息を吐いた。
「そっかぁ……」
なんだか、 大型犬がしょんぼりしてるみたいな顔。
それ見て、 逆に罪悪感が出る。
「いや、 嫌とかじゃないんだよ?」
「知ってます。」
「……。」
「嫌なら先輩、 もっとちゃんと言うと思うし。」
その理解の仕方が、 妙に刺さる。
彼、 少しだけ笑って、 あなたを見る。
「でも、 ちょっとだけ寂しかったです。」
その声が、 思ったより優しくて。
あなたは困ったみたいに笑うしかなかった。
朝7時すぎ。
まだ街が完全には起ききってない時間。
カフェの窓から入る朝日が、
テーブルに柔らかく落ちてる。
あなたは奥の席で、 湯気の立つラテを片手に、
ノートを開いていた。
最近始めた朝活。
好きな映画の気になるメモを書いたり、
今日やること整理したり、 ぼーっとしたり。
夜より静かなこの時間が、 思った以上に気に入ってる。
店内には、 キーボードを打つ音と、
エスプレッソマシンの音だけ。
その時。
「…先輩、おはようございます」
聞き覚えある声。
向かい側のレジの方へ顔を上げると、 レジ前で彼がぺこっと頭を下げた。
職場の後輩。
いつもは仕事終わりで会うことが多いから、
朝の私服姿がなんだか新鮮。
彼、 トレー持ったまま近づいてくる。
「え、先輩…… 朝いるタイプだったんですか。」
「失礼だなあ。」
「いや、 完全に夜型かと思ってました。」
「確かに夜の方が楽…最近は朝活してるの。」
「朝活。」
彼、 ちょっと笑う。
「なんか意識高い。」
「言い方。」
でも、 嫌な感じじゃない。
彼は少し迷ってから、 あなたの向かいを見る。
「……ここ、 座っていいですか?」
「…え。あ、うん。」一瞬の間、
彼、 わざとらしく肩を落とす。
「邪魔されたくない派なんですね。了解しました、失礼します、あーーー寂し、ショック」
「まって待って…!」
思わず呼び止める。
彼、 ぴたり止まって、 ゆっくり振り返る。
口元、 ちょっと笑ってる。
「間がありすぎましたよ。 悩んだじゃないですか」
「そうだけど、 うん、そうなんだけど。」
「ほらぁ。」
「でももう話しかけられたから、 関係ない感じだし」
彼、 数秒じっとあなたを見る。
それから、 ふっと目を細めた。
「…次から気をつけます」
「だと有難いな。 笑。今日はこのまま話そう、ね。」
「仕方ないなぁ」
「いや待って、 なんで私がお願いしてるみたいな…」
彼、 堪えきれないみたいに笑う。
朝の静かな店内に、 小さい笑い声だけ響く。
それから、 ゆるい会話。
仕事の話だったり、 最近観た映画だったり。
「先輩、 朝なに時起きなんです?」
「今日は6時半。」
「え、偉。」
「でも起きるまでが地獄。」
「想像できる。」
「どういう意味?」
「よく寝足りないって言ってるし」
「言ってる。」
「やっぱり。」
彼、 ラテ飲みながら笑う。
その笑い方が、 仕事中よりずっと柔らかい。
あなたもつられて笑う。
こういう空気、 なんかいいなと思う。
頑張って盛り上げなくても、 沈黙が気まずくない。
ふと。
彼が窓の外見ながら言う。
「朝のカフェって、 ひとり時間の人多いですよね。」
「うん。 だから好き。」
「先輩、 めちゃくちゃ“自分の世界”入りますもんね。」
「入る。」
「俺さっき、 店入って3回くらい絶対視界入ったのに気づかれてなかったです。」
「えっ。」
「ぼーっと考え事してました。」
「嘘。」
「ほんと。」
ちょっと恥ずかしい。
あなた、 ラテ飲んで誤魔化す。
彼、 そんな様子見ながら、 ぽつり。
「でも。」
「ん?」
「その感じ、 なんか好きです。」
「……。」
「ちゃんと、 ひとりの時間楽しんでる人って感じで。」
さらっと言うから、 余計困る。
恋愛っぽく聞こえそうで、 でもギリギリ違う。
その曖昧さがずるい。
あなた、 視線逸らしながら小さく言う。
「……朝から距離近くない?」
「朝だからですよ。」
「意味わかんない。」
「仕事中じゃないからかな?特に空気感がゆるいんですよね、」
「誰の。」
「先輩の。」
「……。」
彼、 いたずら成功したみたいに笑う。
そのあと、 時計をちらっと見て、 少し残念そうに言う。
「そろそろ行かないと。」
「あ、もう一個の仕事?」
「はい。 先輩は?」
「私は休み。」
「いいなぁ。」
立ち上がって、 トレーを持つ彼。
でも、 すぐには行かない。
「……また朝活します?」
「たぶん。」
「じゃあ、 また来ます。偶然隣の席座っておきますね」
「あれ??こいつ、学んでないな?」
彼、 すくすく笑う。
「あれー?じゃ、また」
ご機嫌そうに仕事に向かう彼。
それから少しして。
あなたは朝のカフェの場所を変え始めた。
最初は、 「今日は別の店行ってみようかな」くらいの軽い気持ち。
でも、
気づけば自然と、
あの店へ行く回数が減っていた。
理由は単純。
集中できないから。
朝の静かな時間を楽しみにしてるのに、 扉が開くたび、 「来たかな」って思って見てしまう。
それがもう、 負けな気がして。
だから最近は、 駅の反対側にある小さなカフェに行ってる。
そこは静かで、 人も少なくて、 すごく居心地がいい。
そして、
たまに 少しだけ、物足りない。
そんなある日。
職場の休憩室。
あなたが缶コーヒーを開けていると、 後ろから声。
「先輩。」
「!」
振り返る。
彼。
いつも通りの、 柔らかい笑顔。
でも今日は、 少しだけ探るみたいな目をしてる。
「朝活の頻度下げました?」
あなた、 一瞬固まる。
「……あ、 うー……うん。」
誤魔化すように視線逸らす。
「やっぱり眠たくて……」
「ふーん。」
彼、 じっと見る。
「……。」
「……なに。」
「いや。」
でも、 絶対納得してない顔。
あなた、 居心地悪くなって缶を持ち直す。
彼、 少し黙ってから、 ぽつり。
「最近、 会えないなって思ってました。」
「……。」
その言い方が、 思ったより静かで。
軽く言われた方が楽なのに、 変に本気っぽく聞こえて困る。
あなた、 誤魔化すみたいに笑う。
「…ごめんね、寂しかった?笑」
「はい」
即答。
「いや、返答早」
彼、 壁に軽く寄りかかりながら続ける。
「明日は?」
来るの?みたいな言い方。
少し拗ねたみたいな声。
あなた、 胸の奥が変にざわつく。
彼はたぶん、私ともっと話したいだけだと思う、
1番職場で私が話しやすいから。
寂しかったのは本当なんだろうなって分かる。
沈黙。
休憩室の冷蔵庫の音だけ響く。
それから彼、 少し笑った。
「……俺、 やりすぎました?」
「え?」
「距離感。」
「……。」
図星。
あなた、 視線逸らす。
彼、 その反応見て、 小さく息を吐いた。
「そっかぁ……」
なんだか、 大型犬がしょんぼりしてるみたいな顔。
それ見て、 逆に罪悪感が出る。
「いや、 嫌とかじゃないんだよ?」
「知ってます。」
「……。」
「嫌なら先輩、 もっとちゃんと言うと思うし。」
その理解の仕方が、 妙に刺さる。
彼、 少しだけ笑って、 あなたを見る。
「でも、 ちょっとだけ寂しかったです。」
その声が、 思ったより優しくて。
あなたは困ったみたいに笑うしかなかった。
