榊瑠偉(サカキルイ)は地味男になりたい



 電車を降りると、ラブレターを渡された。

「突然ごめんなさい。いつも電車で見かけてるうちに好きになったんです! 手紙、読んでくれるだけでも良いんです」

「……分かりました。でも、僕付き合うとかは……」

「……分かってます。気持ちだけでも伝えられれば良いんです」

 押しつけられたラブレターを鞄にしまう。

 これで何人目だろうと、僕はため息をついた。

***

「朝からモテるね-。榊(さかき)王子」

「その呼び方、やめて下さい。花房(はなぶさ)さん」

 同じ大学の同級生、花房美湖(はなぶさ みこ)さんはことあるごとに僕に嫌みを言ってくる。

「ま、学校一番の美形天才様ですから? 榊王子は」

「……」

 僕は花房さんに目礼をして、逃げるように学校に向かった。

***

「なんで僕ばっかりこんな目にあうんだろう……」

 僕は目立ちたくないのに、生まれついての容姿がそれを許さなかった。

 小さい頃から可愛すぎて誘拐されそうになったり、女子からの告白が後を絶たなかったり、それを逆恨みした男子にいじめられたり、スマホで盗み撮りされたり、ろくな思い出がない。

 もう一度ため息をついてから教室に入ると、何人かの地味目な男子がスマホをのぞき込んでいた。

「何、見てるの?」

 僕が訊ねると気まずそうに一人が答えた。

「えっと…… 榊さんが見る物じゃないと思うけど……。一般人の動画だよ」

「一般人の動画?」

「見てみる?」

 スマホに映されている動画には、ちょっとダサメの男が食事をとりながらゲームをやっている姿が映されていた。
 閲覧数は多くない。

「こういうの、いいなあ……」

「え?」

「いや、何でも無い。ありがとう」

 僕はスマホの動画サイトのタイトルを覚えた。

 家に帰ってから、自分の部屋に戻ると早速タブレットPCから動画を検索した。

 そこには、普通の人の普通の生活がUPされた動画が並んでいた。


「僕もやってみようかな……」

 僕はお面を付けて趣味の日本の城プラモデル作りをスマホで撮り、動画サイトに登録してUPしてみた。

「どうかな……?」

 再生数は二桁。

 コメントは『地味、渋い、親父?』
 『誰が見るんだよ、こんなの』
 
「え? こんなこと言われたこと無い……」

 でも、そっけないコメントが、なんだか本当の自分を見てくれているみたいでホッとした。

 僕は皆から注目されるほどの人間じゃない。そんな思いをずっと抱えていたから、動画に付いたコメントは、なんだか僕をくすぐったい気持ちにさせた。

「よし、続けてみよう」

 僕の日課に、動画更新という行動が追加された。


 動画更新を始めてから、三ヶ月。

 フォロワーが五十人になった。

 僕はお祝いに牛丼を買った。普段は口にしないけど、食べているところを動画にUPするつもりだった。

「あれ? 榊王子、なんでこんなとこに居るの? 牛丼なんて平民の食べ物食べるつもり?」


 花房さんに見つかった。僕は無視して店員さんにチーズ牛丼を注文しようとすると、花房さんが可笑しそうに笑った。

「さすが王子。頼み方、知らないんだ? こっちのタブレットで注文するんだよ?」

 花房さんが牛丼の買い方を教えてくれた。意外に良いところもあるのかも知れない……と思っていたら写真を撮られた。

「あはは。王子が牛丼買ってたって皆に言ってやろー」

「……お好きにどうぞ」


 僕は有名なチーズ牛丼大盛りを選んで持ち帰ることにした。

 代金を払うためにスマホを取り出すと、花房さんに取り上げられた。

「あれ? なんか動画サイトがお気に入りに入れてるの? あ、城プラモデル淡々と作ってる動画主フォローしてるんだ? 意外」

「返してくれないか?」

 僕がムッとして花房さんを睨むと、花房さんはシュンとしてすぐにスマホを返してくれた。

「はい」

 花房さんは席に着いて自分の注文をした。
 僕がチーズ牛丼を受け取り帰ろうとすると花房さんが手を振ってきた。

「じゃあね、榊王子」

「その呼び方、やめて下さい」

 僕は牛丼屋を後にして、部屋に帰った。

 パーカーに着替えてサングラスをつけてから、チーズ牛丼を食べる動画を撮った。

『いつもありがとう。祝50フォロー』と書いた紙を首から提げて、静かに食べたチーズ牛丼は、とても美味しかった。


 翌日、花房さんに声をかけられた。

「榊王子! これ王子でしょ!」

「え!? 何!?」

 花房さんの発言で教室がざわめいた。

「これだよ、これ」

 そう言うと花房さんが、昨日の動画を大音量で流した。

「この声、榊王子でしょ!?」


 一言だけ言った「美味しい」という声がスマホから響く。

「一人で日本の城プラモデルを作ってる動画主、王子だったんだよ。誰が見るんだよ、こんな地味な動画。取り柄の顔も隠してるし。ウケる」

 花房さんがクラスの人たちにスマホ画面をむけてそう言うと、みんなが僕に注目した。

 その時、いつも教室にかたまっている、地味系と言われている男子達が立ち上がった。

「榊くんを侮辱するな!」

「そうだ、趣味が地味で何が悪い!? 城プラモ、すばらしい趣味ではないか!」

「榊王子!! 王子もこっち側の人間でしたか!?」

***

 翌日、僕は今までよりも、もっと人気者になってしまった。

 なにやら、ギャップ萌えとかいうやつらしい。

 そして、動画再生数が三桁になった。

『素顔をみせて』という書き込みがあった。

『ごめんなさい。それはできません』と、僕は返事を書いてスマホの電源を切った。


 明日は今まで僕に遠慮をしていた男子達とボーリング場で遊ぶ約束をした。

 ファンではなく友達が出来た。

 僕は、明日が楽しみで眠れそうになかった。

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