結婚したくないはずの俺様社長に、成婚を強行されました

 前庭の中央で幾重もの水の筋を描いている大理石の噴水。その脇を通りかかったとき、透子のバッグの中でスマートフォンが震えた。

「あ、電話」

「出てくれ」

 繋いでいた手を離し、促すと、透子は「すみません」と断ってから通話ボタンをタップした。

「――はい。ヒロ君、どうしたの?」

(ヒロ君?)

 透子の口から男の名前が飛び出し、迅はピクリと体を揺らす。

「なんでも大丈夫だよ。ねぇちょっと、ヒロ君、緊張しすぎ。私は会えるの楽しみにしてるよ」

 迅が聞いたこともないような親しげな声色だ。迅は胸をざわめかせながら、通話が終わるのを待った。

「うん、じゃああとでね」

 通話を終えた透子がスマートフォンをバッグへ戻す。迅は一拍だけ我慢しようとした。

 しかし無理だった。

「ヒロ君って誰だ」

「えっ?」

「だいぶ親しそうだったじゃないか」

 そんなつもりはないのに、責めるような口調になってしまう。キョトンとしていた透子は、不思議そうに口を開いた。