結婚したくないはずの俺様社長に、成婚を強行されました

 ハンドルを握る迅の表情は苦々しく歪んでいる。

「いえ、迅さんが来てくれたので助かりました。でも確か、明日お帰りだったはずですよね」

「君のメッセージを見て、無理やり早めに終わらせて返ってきた――透子」

 前を向いていた迅の視線が一瞬だけこちらをかすめる。

「マンションに帰ったら、ゆっくり話したい」

 その静かな声音に、車内の空気が一瞬で変わる。

「……はい」

(そうだ、私も、ちゃんと迅さんに気持ちを伝えるんだ)

 予定よりそのときが早まったと気づき、透子はそっと唇を引き結んだ。


 マンションに帰り着いた透子は、玄関で靴を脱ぎ、先にリビングへ向かう。照明をつけたあと、足を止めて振り返った。

「迅さん、お帰りなさい。出張お疲れさまでした」

 もしかしたら、近いうちに、こうして彼にお帰りなさいを言えなくなるのかもしれない。

 だからこそ透子は、精一杯の気持ちを込めて彼を迎えたかった。

「ああ、ただいま」

 眩しそうに目を細めた迅が、ゆっくりとこちらに近づき、正面に立つ。

「透子が出ていくなんて言ったのは、母や恭弥からの結婚の圧に引いたからか?」

「えっ」