結婚したくないはずの俺様社長に、成婚を強行されました

 父と離婚するとき、『あんなに好きだったのにね』と涙していた母の背中を思い出し、心に小さく痛みが走る。

「夫婦ってね、相手を尊重して、手を取り合いながら進んでいくものなの。恋愛結婚でも、結婚相談所で出会った相手でも、それは変わらないわ」

 ひとしきり話したあと、母は悪戯っぽく笑い、透子の背中を軽く叩く。

「まずは、その恋心と、彼にちゃんと向き合いなさい。きっとうまくいくわ。私が言うんだから間違いないわ」

「……ときめきだけで、結婚するなって昔、お母さんに何度も言われたけど」

 透子は少しだけ唇を尖らせ、冗談めかした恨み言を口にする。

「てっきり透子も、私と同じ恋多きタイプだと思ってたのよ。まさか、こんなに鉄壁になるとは思わなくて」

 母は苦笑交じりに肩をすくめる。

「でも、あなたの初恋は、彼のために取っておいたのかもしれない。そう考えると、素敵じゃない?」

 優しく言われて、透子の胸はじんわりと熱を持つ。

「そうだね。素敵だと思う」