結婚したくないはずの俺様社長に、成婚を強行されました

 ただの娘に戻って震える声で打ち明けると、母は椅子から立ち上がり、透子のそばへ歩み寄ってきた。

「あなたは、彼を好きになったことを後悔してるの?」

「後悔はしてない……でも、すごく苦しいし、怖いの」

 彼を好きになれた自分を否定したくはなかった。胸が浮き立つような感覚も、もっとそばにいたいと願ってしまう気持ちも全部、本物だから。

 ただ、これまでの価値観を塗り替えてしまうほど強い想いに、透子は戸惑わずにはいられなかった。

「……お母さんは、お父さんを好きにならなければよかったと思ってる?」

 透子はためらいがちに切り出す。この質問をするのは初めてだった。

「やっぱり、透子の恋愛観、私が影響与えちゃったのね」

 母は困ったようにため息をついた。

「好きにならなければよかったとは思ってないわ。あの人を本気で愛していたのは事実だから」

 どこか遠くを見るような目で、静かに続ける。

「でも、あの頃の私たちは、お互い自分のことしか見えてなかったの。ただ人として未熟だったのよ」

「……お母さん」